令和5年度施政方針「暮らし最優先。次世代の豊かさを拓くのは、天理の共創力」

◆ はじめに(総論)

==多様化する社会課題と「天理市」の地殻変動==

 新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが、5月8日より季節性インフルエンザと同等の「5類」に移行される予定です。約3年に渡り社会のあらゆる分野に影響が及んだ「コロナ禍」は、大きな節目を迎えようとしています。

 これまでにお亡くなりになった皆さまに改めて哀悼の意を表し、今なお療養中の方々のご快復をお祈り申し上げます。医療従事者のご貢献に心から敬意と感謝を表しますともに、感染対策にご協力下さってきた全ての市民及び事業者の皆さまにお礼申し上げます。

 コロナ禍が始まった当初、私達は一日も早くかつての日常が取り戻されることを願いました。しかし、ようやくコロナ後の社会が見えつつある今、我が国及び国際社会が抱える課題は多様化・複雑化し、単にコロナ前の社会に戻ることは不可能と思われます。

 ロシアによるウクライナ侵攻によって世界の不確実性が高まり、安全保障の対象範囲は経済・技術分野にも急速に拡大しています。

エネルギー価格の高騰は、輸入物価や消費者物価の上昇に影響し、コロナ禍の傷を癒すべき市民生活や社会経済活動に新たな影を落としています。本市施設の光熱水費や、建設事業等も例外ではありません。

 資源や食糧を巡る国際競争が激化する一方、持続可能な地球環境の保全は差し迫った状況となり、脱炭素化や循環型社会への転換は、環境問題に留まらず産業競争力を保つ上でも不可欠の要素となりました。この視点ぬきに地方創生はあり得ず、地方がピンチをチャンスに変えることができるかの分かれ道とも言えます。

 コロナ禍の下、少子高齢化には歯止めがかからず、令和4年の出生数は統計がある1899年以来はじめて80万人を下回りました。政府は国家の存続に関わる問題との危機感を示し、「従来と次元の異なる子ども・子育て政策を実現し、社会全体の意識を変える」として、4月に予定される子ども家庭庁の発足をはじめ、政策の検討を続けています。

 本市の子ども・子育て支援では、この10年間で学童保育の受け皿を倍増させた他、長年の懸案であった小中学校の耐震化は、北中学校、南中学校の建替をもって達成しました。

 昨年度に改編した前栽こども園と丹波市南こども園の2園に加えて、民間保育園2園が4月と6月に開設される予定となり、待機児童の解消も実現できる見込みです。内1園は、市内で待望された病児・病後児保育も可能な施設となります。

 令和5年度から、医療費助成の対象年齢を高校生までに拡大します。また、医療費の現物給付化を令和6年8月に県下一斉に実施する方向で、市長会・町村会合同での勉強会を会長市として主催しました。大部分が保険適用となった、不妊治療についても、市独自で自己負担分の一部を助成しています。

 他方で、子ども・子育て支援に限らず福祉の充実には、持続可能な財政運営の裏付けが不可欠です。本市では長らく天理教教会本部からの多額の寄付金のお陰により、市税や交付税等で賄いきれる以上のきめ細かい市民サービスを行ってきました。顕著な例として、市内に9つの小学校校区があり、その全てに公民館と幼稚園が存続しています。

 そのため、全国の類似団体との比較でも教育・福祉関連の支出が多く、経常収支比率の高止まりの要因となっています。しかし、寄付金はかつての年間15億円規模から徐々に減少し、コロナ禍の影響も加わって、令和4年度に2億円まで低下しました。令和5年度予算案でも同額を計上しています。

私が就任した平成25年と比較しても、当時と同じ懐事情で市を運営するには、30億円以上の市税の増加が必要となりますが、市税総額70億円台の本市にとって、回復できる数字ではありません。

 人口についても、かつて天理市が宗教文化都市として享受していた優位性が急速に薄れつつあり、コロナ禍の3年間で拍車がかかりました。市内最大規模の団体では、かつて千名を超えた勤務者数が半減し、関連する施設でも減少しています。全寮制の私立学校1校が今年度末で閉校され、天理大学の学生も収容定員が減少しています。

 令和2年の国勢調査では、5年前と比較して本市人口は5.2%減少しており、詰所や寮などの特別調査区人口が14.6%減少したことが押し下げ要因になりました。

 住民基本台帳上の社会増減では、令和4年中に本市人口はさらに751名減少し、奈良県全体の減少数1,227名の半数以上を占める異常事態となりました。

 財政と人口の両面において、宗教文化都市として発展してきた「天理市」は今、地殻変動の最中にあると言って過言ではありません。

 全国の自治体では、政府の子育て政策に「先行」する形で、教育・福祉分野での無償化や補助等の拡充が続いています。子育て等にかかる家計の負担や社会的阻害要因を軽減することの重要性は、本市も共通認識としてもっています。結婚や出産に関する希望が叶った場合の「希望出生率」に合計特殊出生率を近づけ、また、子育て世帯の転入を促して地方の人口増につなげるため、努力を尽くさなくてはなりません。

 しかしながら、優遇策の自治体間競争、子育て世帯の誘致合戦となった場合に、財政力のある自治体と同じ土俵で闘えるかと言えば、厳しいのが現実です。日本社会全体での出生率改善に効果的な施策を見定めつつ、経済的支援に加えて、スポーツや歴史文化、農業、自然環境、お互いの顔が見える地域コミュニティなど、本市がもつ社会資源を総動員する必要があります。

 特に、地域コミュニティは諸先達が営々と築かれてきた天理のかけがえのない財産です。本市は、村落社会の構造が県内でも最も残っている地域であり、自治会が小学校区毎にまとまりを持ち、長寿会や商工連盟、スポーツ振興委員なども校区単位で形成されています。

 自治会の加入率も減少傾向にありますが、校区が単なる通学範囲ではなく、地域コミュニティの核になっていることは、今も天理の特徴です。

 この3年間、感染対策のために地域の行事や集会に制限が続きました。高齢者が生きがいを持ち、住み慣れた地域で安心して暮らし続けるために支え合う地域社会の再構築が最重要課題です。子ども達にとっても、家族以外の大人と会話する機会が減少したことは、コミュニケーション能力の成長に大きな影響があったと考えています。

 これらの課題、そして天理だからできる強みに着目した取組の一つが「みんなの学校プロジェクト」です。

 令和4年度は、各小学校で公民館活動との共同授業、学校内での地域の居場所づくりなども開始しましたが、まだまだ事業の趣旨を地域の皆さまにお伝えしきれておらず、校区によって濃淡があるのも現状です。

 しかし核家族化が進んで祖父母との同居世帯は昭和平成と比べて非常に少なくなり、子ども達が高齢者にどう接すれば良いか学ぶ機会が減っています。共働きやひとり親家庭をはじめ保護者の皆さまも多忙であり、子ども自身も習い事等で忙しく、日常生活での人との会話が減少しています。実証的な共同授業では、限られた時間の中でも、子ども達と高齢者が共に学び合うことの喜びと意義を確認することができました。

 子ども達の笑顔を中心に、学校を再び地域の絆づくりの拠点とすることが「みんなの学校プロジェクト」の目的です。公民館の利用者も、高齢化やメンバーの固定化が課題となっていますが、子ども達と触れ合い楽しむことによって、生涯学習のすそ野が広がることを期待しています。

 課外活動やイベントのように、通常の学習とは別に実施するのではありません。公民館をはじめ地域の様々な取組みは、理科、社会、図工、音楽、体育、家庭科など子ども達の学習にとって有益な教材の宝庫であり、カリキュラムの中で学校教育と生涯教育の融合を図ります。

 地域有志が運営する「マチカ塾」をはじめ「夢応援プロジェクト」を地元主導で進んできた櫟本校区では、櫟本だから可能な地域社会と連携した学びが育ち、児童に地域の高齢者等を思いやる心を見ることができます。生活利便性が高く、財政力の高い都市部と同じ路線で対抗するのではなく、天理で学び育つことの付加価値を創造し、真の郷土愛を育むには、この道しかありません。

 今後より前に進んでいくため、「みんなの学校プロジェクト」に協力いただける公民館の各教室に対して、予算を重点配分していきます。また、児童が利用しない時間帯の学校施設の利活用を根本から見直し、令和7年度には全ての公民館活動の学校内での実施を可能にすることを目指します。

 もちろん令和7年度をもって全ての公民館を閉鎖する訳ではありません。しかし、令和10年頃から老朽化した公民館は、大規模改修や建て替えが必要になってきます。現時点でも、数百万から一千万円以上の改修を要する館が複数あります。

 これらを全て賄うことは、到底できないのが天理市の偽らざる現状です。すなわち、「みんなの学校プロジェクト」を進めなければ、公民館が耐用年数を迎えると同時に、これまで地域が育んできた諸活動が失われることになるでしょう。

 ここで話が戻りますが、寄付金と人口が激減した本市が、これから全国的に期待される子育て支援の拡充にどこまで対応できるでしょうか。医療費、保育料、給食費など様々議論されていますが、補助や無償化の1メニュー毎に本市の人口規模で要する費用は、概ね2、3千万円から7、8千万円です。一年限りであれば兎も角、福祉関連費用は毎年必要です。ただでさえ、経常収支比率が厳しい本市にとって、この金額は決して容易ではありません。コロナ禍の3年間のように、地方の裁量が大きい財源が国から割り当てられることは今後期待できません。むしろ、現状のサービスを維持していくことすら高いハードルです。

 では、諦めてしまうのか。近隣自治体よりも支援が手薄となり「子育てに優しくない町」という認識が広まれば、現役世帯の人口はさらに減り、悪循環となるばかりです。

 天理らしいサービスの充実によって、若者や子育て世帯の共感を得、流出を抑えることが急務です。

 道がない訳ではないと考えています。「みんなの学校プロジェクト」は、その一例です。先ず、施設と市民サービスを、固定的にイコールで捉えるのを止める必要があります。守るべきは、サービスの中身であって、施設そのものではありません。もちろん、場所や利用方法を変えれば、なぜ今まで通りではダメなのか、と一定の摩擦は生じます。そんなに急に変わることはできない、との戸惑いも伺います。

 最近の数年間も、学童の学校施設利用や、こども園化、ゴミ処理広域化などで同様の声を頂戴してきました。

 しかし、我々は粘り強く関係者のご理解を得る努力を尽くし、成し遂げてきました。

 これまでのあり方を否定する意図はなく、急ぎたいのでもありません。変わること自体に意味がある訳ではないのです。しかし、コロナ禍前後に生じたこの数年間に起きた状況の変化は、あまりに急激かつ強烈です。従来の市役所の業務のあり方や市民サービスが、持続可能ではなく、近い将来に続けられないことが明らかである、この現実を受け止めることは不可避です。

 公民館に限らず、老朽化した市内の施設全体のあり方を、徹底したファシリティ・マネジメントで見直します。新たな付加価値を生むわけではない修繕や改修などハードの維持にかける予算を思い切って停止し、運営費用を合理化し、そこから生み出した財源を、学習の中身や支援の拡充に繋げる道筋を探ります。施設だけでなく、業務のあり方自体をデジタル化も積極活用して効率化し、限られた人員できめ細かなサービスを可能にする市役所へ脱皮することも必要です。

 コロナ禍の下の市政運用を平時に戻し、社会が受けた影響を先ず癒さなければならない令和5年度予算案の各施策には、これまでお話しした趣旨をまだ明確に反映できている訳ではありません。来年度、市政が為すべきことを着実に実施するために、暮らし最優先で予算を組み、財政調整基金の残高も、令和3年度末の2倍以上となる20億円台を5年度末に維持する見込みを立てられました。新クリーンセンターの建設がはじまり、市債発行額は前年度を上回るものの、令和5年度末の市債残高は前年度比で約1億円減少を見込んでいます。

 であるならば、なぜ本日これほどの危機感をお示ししたのか、と疑問を持たれるかもしれません。表面上は小康状態も見える今だからこそ、将来の見通しを率直にお伝えしたとご理解下さい。

 コロナ後に向けて、世の中が動き出しつつあります。国際社会も我が国も、課題は山積する中、政府及び奈良県も今後様々な施策が試みられると予測します。

 本市としても、社会の動静や市民のニーズに絶えずアンテナを高くしながら、持続可能かつ未来に希望を持てる共創の町づくりに全力を注ぐことを、予算案の詳細に先立ち申し上げます。

==持続可能な財政運営を目指して==

 議案第7号、令和5年度天理市一般会計予算(案)についてご説明申し上げます。一般会計の予算額は、歳入歳出とも267億1千万円、前年度比で10億4千万円、4.1%の増加となりました。

 まず、歳入からご説明いたします。

 市税の内、個人市民税及び法人市民税は、コロナ禍の影響は続いているものの、国の基調判断及び令和4年度の決算見込み額を踏まえ、増額を見込んでいます。固定資産税は、家屋及び償却資産の増加による増額を見込んでいます。市税総額は76億1,400万円、前年度比1億7,600万円、2.4%の増収となる見込みです。

 地方消費税交付金は、消費回復の動きがみられるとの基調判断により、前年度比1億1,500万円、8.0%の増収の15億6,500万円となる見込みです。

 地方交付税は、61億9,500万円、前年度比7,300万円、1.2%の増収となる見込みですが、臨時財政対策債が前年度比1億5,800万円、50.7%減の1億5,400万円となり、実質の地方交付税は、前年度比8,500万円減少することとなります。

 国庫支出金は、民間保育施設の開設及び障がい児施設給付費により増加する一方で、民間保育施設整備補助金の減少、コロナワクチン予算及び地方創生コロナ交付金の減少により、前年度比5億5,700万円、12.5%の減の39億600万円となる見込みです。

 市債は、臨時財政対策債が減少する一方、新クリーンセンター建設工事分担金、天理市清掃管理事務所建設工事、北保育所建替工事等による増加により前年度比14億2,500万円、179.4%増の22億1,900万円となる見込みです。

 道路等の整備や学校関連施設などの公共工事は、引き続き市民の命と安全・安心を確保するために先送りすることなく取り組むべきものを精査し、国の経済対策等を踏まえて国庫補助金の活用や償還時に地方交付税措置等のある有利な起債の利用に努めています。

 令和5年度末の一般会計における市債残高は、228億5,600万円となり、過去に借り入れた市債の償還元金を差し引きすると、前年度に比べて1億6,100万円減少する見込みです。

 令和5年度の市債元利償還金は、臨時財政対策債を含め約24.6億円となっていますが、このうち51%程度は普通地方交付税の基準財政需要額として算定されています。

 基金からの取り崩し額は、減債基金が前年度と同額の 1億5,000万円、財政調整基金の取り崩し額は、前年度に比べて2億2,000万円減の4億1,000万円です。令和4年度の決算時には、例年通り6億円程度の積み増しがあるものと想定し、令和5年度末の財政調整基金残高は20億円以上を確保できるものと見込んでいます。

 次に、歳出について申し上げます。

 目的別の歳出として、歳出全体の44.9%を占める民生費は、119億8,700万円です。前年度比4億3,800万円、3.8%の増加となっています。民間介護施設及び民間保育施設整備に伴う補助金などが減少する一方、扶助費等の増加に加え、北保育所の移転新設工事費、新たな民間保育施設運営費、子ども医療費助成費等が増加したことによります。

 衛生費は33億9,500万円で、コロナワクチン関連予算が皆減し、現ごみ焼却施設や、し尿処理施設等の修繕に係る費用が減少した一方、新クリーンセンター建設に伴う山辺・県北西部広域環境衛生組合分担金の増加、併設する天理市清掃管理事務所の建設工事費、第2最終処分地閉鎖工事費、火葬場修繕費の増加などにより、

 前年度比9億7,700万円、40.4%の増となりました。

 土木費は21億3,300万円で、道路修繕工事費、河川改修工事費、橋梁調査委託料等の増加により、前年度比3,400万円、1.6%の増です。

 教育費は21億5,600万円で、北中学校の建設事業及び各小学校の改修工事費の減少により、前年度比5,200万円、2.4%の減となりました。

 以上が歳入歳出予算の全体像です。

 政府は少子化対策を充実させる方針を示していますが、防衛費の増額も見込まれる中で、国の施策に対する地方の負担は不透明な状況です。

 令和5年度予算は、令和4年度当初予算と比較すると、大型建設事業に伴う歳出が増加しているものの、職員の定年延長により令和14年度までは退職者が隔年となるため、退職手当が3.16億円減少したこと、及び市税や国の交付金等の増額及び国・県支出金の活用や起債等による財源を確保することにより、財政調整基金の取り崩しを大幅に抑えて組むことができました。しかし、令和6年度にはクリーンセンター建設事業の予算規模が増加し、今年度は計上の必要がなかった退職手当も隔年で必要となります。

 現在取り組んでいる「財政構造改革2019」をより加速させ、第2期集中改革期間の初年度として、人件費をはじめとしたあらゆる歳出項目を見直すとともに公共施設のあり方を抜本的に見直すなど、将来を見据えた収支バランスの改善に取り組みます。

 令和5年度予算では、コロナ後に向けた「共に支え合うまちづくり」を推進するため、5つの重点項目を設定しました。

1つ目は、誰もが地域で安心して健やかに暮らせる「福祉」の充実

2つ目は、地域と共に、一人ひとりの豊かな未来を育む「教育・子育て」の充実

3つ目は、市民の命と暮らしを守る「安全・安心」のまちづくりの実現

4つ目は、活力ある地域社会に向けた「地方創生」の推進

5つ目は、新しい時代に適応した持続可能な「行政サービス」の実現です。

 順に詳細をご説明しますが、冒頭に、各施策にまたがる本市の取組みとして、デジタル地域通貨「イチカ」について申し上げます。

 本市は、地元消費の喚起と、支え合いのまちづくりに好循環を生み出すことを目的に、昨年8月からデジタル地域通貨「イチカ」の運用を開始しました。開始当初、248店舗であった加盟店は、すでに380店舗を超え、現在も増加しています。

 導入初年となる昨年は、コロナ禍やエネルギー・食料品価格等の物価高騰の影響もあり、公費負担による運用を主として参りました。子育て世帯支援、健康増進、プレミアム付イチカの販売など多岐にわたり、特に子育て世帯支援分のイチカは、アプリに取り込んでの使用が96%を超えて、電子決済が定着しています。

 昨年12月には、「イチカプラス」事業を開始しました。イチカによる売上の一部を店舗がこども食堂やスポーツ団体など地域活動を担う組織へ寄附いただくことで、地元消費に市民が共感できる新たな付加価値を生み出すことを目的としています。現在、45店舗がこの理念に賛同いただき、2月末での支援額は50万円を超える見込みです。

 令和5年度も、イチカは市の様々な施策のプラットフォームとして展開します。2月から事業を開始した国の出産・子育て応援交付金事業では、出産・子育て応援ギフトのクーポンとして、イチカも選択でき市独自に計2万円分の上乗せを行います。また、昨今の物価高騰により小中学校の給食費を一時的に値上げせざるを得ない状況ですが、ご家庭への影響を緩和するため、児童生徒1人当たり12,000円分のイチカを給付し、概ね2年分の値上げ相当額を支援します。

 その他、生活支援ボランティアなどの支え合い事業、ゴミの減量化や資源化に取り組んだ市民及び健康増進活動に参加した市民へのポイント付与など、活用の機会を広げてまいります。

 特に、プレミアム付イチカチャージカード販売事業では、イチカプラス店でチャージカードを販売いただき、利用者に2割分のプレミアムを付与し、店舗にもチャージ券売り上げの1割分を支援します。これにより、民間資金によるイチカの活性化と地元消費の喚起、 イチカプラスによる支え合いの循環の更なる発展を図ります。

 次に、5つの柱に沿って重点施策をご説明します。

◆重点施策、主な事業

第一の柱は、誰もが地域で安心して健やかに暮らせる「福祉」の充実です。

 認知症対策では、「予防」と「共生」を核として、誰もが地域の一員として安心して暮らせる「認知症と共生するまちづくり」を進めます。

 「予防」では、活脳教室・活脳クラブ、STEP体操、「共生」では、認知症初期集中支援や認知症サポーターを中心としたチームオレンジによる支援事業、認知症カフェ、メディカルセンター内まちかど相談室での「オレンジサロン」などを実施しています。

 活脳教室は、計129名のサポーターに支えられ、令和元年度から4年間で計19会場、約300名の参加を得ました。令和4年度は、身近な場所での「活脳を通じた居場所づくり」を目指し、公民館に加えて地域の集会所などでも活脳教室を開催することができました。

 令和3年度までの参加者の9割を超える方の認知機能が維持・改善され、今年度も同程度の結果を見込んでいます。アンケートでも前向きな意識の変化が見られます。6カ月の教室終了後も継続して活脳に取り組む「活脳クラブ」の立上げを支援し、現在160名を超える方が参加されています。

 また、世界アルツハイマー月間である9月に啓発事業を行い、若年性アルツハイマー型認知症の当事者による発表や、その人のもつ能力を奪わない工夫を重ねたケア技法である「ユマニチュード」についての講演会などを開催しました。令和5年度も認知症に対する知識、認知症との関わり方を知る機会を設け、当事者やご家族が孤立することなく相談できる環境確保に努めます。

 介護予防分野でのデジタル化では、NTT西日本と連携して睡眠データを可視化する成果連動型事業「睡眠サポートプログラム」を令和4年度に開始しました。自宅で実施でき、かつ睡眠をテーマにしたことにより、今まで介護予防教室などに参加することが少なかった男性参加者の割合が4割を超え、参加者全体の約70%以上の方に睡眠改善の効果がみられました。良質な睡眠を通じて、高齢者の心身の健康状態の維持改善をめざした事業として、令和5年度は効果の検証をさらに進め、事業を展開します。

 市内に4か所ある地域包括支援センターや生活支援コーディネーターの支援のもと、高齢者が歩いて行くことのできる交流の場が、市立公民館や地域の集会所など、市内各所現在54ヶ所にできました。リハビリ職の介入により体力測定を行い、結果をフィードバックすることで健康意識の向上にもつなげています。今後は、認知症サポーターとも連携を図り、認知症患者への支援や、認知症についての理解促進を図ります。

 生活支援体制整備事業では、地域住民の互助意識を高め、高齢者がいつまでも住み慣れた地域で生活できるよう、ボランティア「てんさぽ」を養成し、助けが必要な高齢者とマッチングさせ課題解決を図っています。これまでに約200名が登録を下さり、約100回を超える高齢者の軽度な日常生活課題への支援を行っています。マッチングには、医療法人健和会、社団法人セーフティネットリンケージと連携して「みまもりあいアプリ」を活用しており、同事業は令和4年度、内閣府「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」の優良事例に選ばれました。

 一度活動に参加したボランティアの継続率は、80%以上と高い定着性があります。令和5年度は、1歩踏み出すための動機付けとなるようイチカポイントを付与し、支え合いの輪を広げます。また、令和5年度から新たに2包括支援センター圏域にも生活支援コーディネーターを配置し、より地域に密着した支え合い活動となるよう事業を展開します。

 また令和5年度は、今後の障害福祉施策をより充実させるため、国や県の動向や本市におけるこれまでのサービス等の利用状況、関係団体や障がいがある方の動向やサービスの利用状況を的確に把握し、今後の目標及び障害福祉サービス等の見込量を定める「第7期障害福祉計画・第3期障害児福祉計画」を策定します。介護保険事業でも、制度の持続可能性を確保しつつ、医療、介護、予防、生活支援などを包括的に構築する「地域包括ケアシステム」の確立を目指して「天理市高齢者福祉計画・第9期介護保険事業計画」を策定します。

 健康推進では、旧市立病院跡地において、隣接する市立メディカルセンターと一体利用を目指し、社会医療法人 高清会が「天理メディカルイースト」を令和4年に開業しました。診療所、人工透析室等の医療施設の他、サービス付き高齢者住宅、そして令和5年6月には医療的ケア児 または、それに準じる児童への保育や病児保育・病後児保育が可能な施設として、幼保連携型認定こども園が開設される予定です。サービス付き高齢者住宅の入居者が保育施設の子どもたち、また地域住民との交流を深めながら、共に成長を喜び合い暮らせる複合型施設となります。併設のタニタカフェでは、健康食材を使用した新しい食文化の提案が行われ、地域住民向けの「健康フェスタ」を同法人と市の共催で行いました。

 子宮頸がんワクチンは、令和3年度に積極的な勧奨の差し控えが廃止となり、令和4年度より対象者約1,500名へ個人通知を行うとともに、積極的勧奨を差し控えていた間の対象者約3,600名に対してもキャッチアップの個人通知を行いました。令和4年末時点で、定期接種282名、キャッチアップ接種247名に実施しています。令和5年度は、定期接種となる9価ワクチンも事業対象に加え、接種勧奨にも引き続き努めます。

 コロナ禍で停止していた10カ月乳幼児健診も令和4年度に再開し、特定健診自己負担の軽減を継続するなど、引き続き健康増進に努めます。健康増進および食育推進、自殺対策の複合計画である「天理市健康づくり計画」が令和6年度に次期策定を迎えるため、令和5年度は事前に市民アンケートを実施します。

 コロナ感染により家族全員が有症状で外出できないご家庭に対して、本市は生活支援サービスを行ってきました。令和5年5月8日に感染症法上の類型が「5類」に引き下げられる見通しとなりましたが、それまでの間は、市単独予算でサービスを継続して参ります。

第二の柱は、地域と共に、一人ひとりの豊かな未来を育む「教育・子育て」の充実です。

 令和5年度は、定員90名の民間保育所と、永年の懸案であった医療的ケア児又はそれに準じる児童への保育や病児保育・病後児保育が可能な施設を併設する定員31名の幼保連携型認定こども園が開園します。天理市全体で保育所枠は1,512名となり、ようやく待機児童の解消が実現できる見込みです。

 保育士の負担軽減では、令和4年度よりICT運用を進め、令和5年度は指導計画や要録の作成等、業務の更なる削減を図ります。また園からのお知らせやメール配信などよりきめ細かな運営や保護者との連絡調整に活用します。

 一方、公立幼稚園では園児数の減少が著しく、昭和52年のピーク時から7割減、500名を下回る規模となっています。1学年10人に満たない園も出てくるなど、子どもの育ちに大切な集団が小規模化し、施設の老朽化も進んでいます。今後は、地域の保育ニーズや地域の要望等を勘案しながら、園区制を廃止し、幼稚園同士の統合や保育所との統合による認定こども園としての整備を目指す等、幼児教育と保育の垣根を超えた充実を図ります。

 令和5年度は、北保育所の移転建て替えに着手し、こども園化にも対応できる施設を令和6年度中の竣工を目指します。

 市役所の体制としても、政府の子ども家庭庁発足も視野に、令和5年度は健康福祉部に「健康・こども家庭局」を新設します。幼稚園の関連事務を教育委員会から市長部局に委任し、福祉分野と教育分野が相互協力して、こども行政全般を通じた取組みを担います。

 学童保育は全国的にニーズが高まり、県内でも待機児童が発生しています。本市では学校施設を有効活用することで整備費用を従来の約5分の1に抑えながら枠を拡大し、令和5年度は、16学童保育所、児童数約840人と平成16年度の立ち上げ時の約2倍の規模となり、待機児童を出さずに運営しています。引き続き学校現場との連携を強化して、放課後の居場所づくりと家庭のサポートに努めます。

 「天理市子育て世代すこやか支援センターはぐ~る」では、保健師・助産師・保育士が妊娠期からの切れ目のない支援に努めています。2時間無料の託児サービスの他、来庁できない方のためにLINEを活用した相談業務を行い、次に必要な支援へと繋いでいます。

 産前産後支援では、令和5年度は育児負担が大きい多胎妊産婦に対してドゥーラによる無料訪問を開始します。 

 子どもの預かり支援を受けたい方と、援助したい方をマッチングする「ファミリーサポートセンター事業」は、はぐ~るに加えて、民間の子育て支援事業所に補助金を交付し、事業の拡大を図ります。

 妊産婦に継続的な情報提供や面談を行う伴走型支援と経済的支援を一体的に実施するため、政府は令和4年度より出産・子育て応援交付金事業を創設しました。天理市では、経済的支援について10万円の現金の他、12万円相当のイチカの選択制とし、助産院や病院でのショートステイ、 ドラッグストアでのベビー用品購入等にイチカの活用対象を拡大します。

 不妊治療は、令和4年度から大部分が保険適用となりました。しかし長期の治療を要することも多いため、本市は自己負担分の一部として5万円を支援しており、令和5年度も継続実施します。

 また、少子化の一因として晩婚化や非婚化も指摘される中、本市では結婚・出産・子育てに関する負担や不安を軽減し、希望する方が生涯を共にするパートナーと家庭を創ることをサポートするため、NPO法人日本結婚教育協会と共に応援事業を行います。講座を受講した市民ボランティア「ハロパト」を中心に、商工会、天理教青年会、天理大学など多くの市民の皆さんと連携し、狭義の「婚活」や少子化対策に留まらず、家族となった後も見据えて、継続して地域で支え合う取組みを目指します。

 福祉医療制度(子ども医療費助成、心身障害者医療費助成、ひとり親家庭等医療費助成)は、令和5年4月からは、子育て世代へのさらなる支援として、子ども医療費助成の対象年齢を高校生世代まで拡大します。

 現在のところ小学生以上は、医療保険の自己負担額を一旦支払い、後日に助成金を支給する自動償還方式により行っています。しかし、小・中学生について全国で9割以上の市町村が現物給付方式を導入している中で、奈良県の子育て施策が遅れている象徴のようにもなっています。奈良県内39市町村で協議を重ね、令和6年8月から「小・中学生についても現物給付方式を導入すること」の合意を形成しました。令和6年8月から高校生世代まで現物給付方式の導入を視野に市長会・町村会で努力を続けます。

 温かい食事をみんなで囲み、多世代で支え合う絆を深める「子ども食堂」等が有志のご尽力により市内各地で広がってきました。コロナ禍のため中断も余儀なくされましたが、配食など感染対策を行いながら、火が消えないよう守り抜いて下さいました。柳本公民館では、週明けに子ども達が通学しやすいように日曜の朝ご飯を準備下さり、「天理こども食堂 宿題カフェ」では夕食を手配いただく等、それぞれに工夫を凝らして頂いています。一部の食堂では、地元野菜の配布なども実施され、物価高騰の中で利用者の喜びの声を伺います。

 令和4年度は、子ども食堂同士の情報共有の場を設け、食材の譲り受けなど横のつながりを強化するため意見交換会も実施しました。令和5年度は、感染状況も見定めつつ、本来の「食堂」形式での再開に向けて、市も最大限サポートします。

 また、令和4年度に「フードバンク天理」が発足しました。食品ロス削減推進月間の10月には、「天理市内一斉フードドライブ週間」として、市役所に加えて市立公民館、幼稚園、小学校など市内20ヶ所でフードドライブを開催したところ、290名の方から約680㎏もの食品が集まり、子ども食堂等に届けることができました。今後もフードバンク天理とともに食品ロスと食を通じた子ども支援を強化します。

 令和2年度に「ひとり親家庭支援に対する連携協定」を締結した「おてらおやつクラブ」との連携事業では、ふるさと納税のガバメントクラウドファンディングの仕組みを活用し、令和4年度は8百万円以上のご寄付をいただきました。ひとり親家庭への「おすそわけ」と共に、天理市独自の事業として、支援家庭に天理市内での外食機会の提供、天理市内農家から購入したお米を「おすそわけ」に同梱するなど、支え合いの輪を広げています。

 これらの活動に対して、「イチカプラス」事業を通じた寄付の提供なども進め、市全体に支え合いの裾野を広げるため全力を尽くします。

 市内の小中学校は、コロナ対策の影響を3年間受け続けてきました。文部科学省の方針を受けて、本年度の卒業式はマスクを外すことを原則に行い、4月からは授業をはじめ学校生活においてもマスク着用を個々の判断とする等、日常が回復されつつあります。

 令和5年度はICTを有効活用し、児童生徒の主体的な学びを実現する教育を推進します。GIGAスクール構想により一人一台端末が整備され、児童生徒が普段の授業で活用して、2年が経過しました。オンライン授業は日常化し、教員と児童の課題の配信・提出は端末を通じて容易になりました。ICTを活用した授業により、全国学力・学習状況調査での中学校生徒質問紙の回答では、国語・数学・理科の授業がよくわかると回答した生徒が全国平均を上回りました。令和5年度は、電子黒板の導入も開始し、児童生徒自身が主体的に学ぶ授業を目指します。

 天理市の児童生徒の学力課題として、「文章や資料を読み取る力」と「自分の考えを表現する力」に弱点があります。環境問題、食材価格高騰、情報活用など現代的諸課題を話題にした新聞記事や資料を読み取り、答えを考えるワークシートを活用した取組を市内すべての小学5年生から中学3年生まで実施します。児童生徒の視野を広げながら、学力向上を図ります。「みんなの学校プロジェクト」の中でも、食品残渣発酵分解装置の活用やゴミの資源化を地域と共に行う「イチカステーション」での活動、ゴミを活かした「サスティナブルアート」などを通じて、児童生徒が食品ロスや環境問題を自分ごととして捉える学びを進めます。

 令和5年度は、中学校で地域包括支援センターと生活支援コーディネーターが連携した福祉教育も実施します。 認知症理解の促進、多様な人が暮らす地域での共生など、社会課題を学ぶ機会を創設します。福祉を学ぶことで共感する力や思いやる道徳性などを醸成し、高齢者と直接向き合うことで得られる自己肯定感の醸成に繋げていきます。

 子ども達を中心に地域が共に学ぶ学校づくりは、子どもたちが多様な価値観を得ながら学ぶ力を伸ばし、将来の社会貢献等への参画意識や非認知能力を育む天理らしい教育の礎になると考えています。

 不登校・いじめ対策では、個々の児童生徒が抱える背景や行動の動機を把握した上で、臨床心理士、スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカー等の専門家を交えて対応しています。コロナ禍の中でタブレット端末を有効活用し、不登校の児童生徒に家庭にオンライン授業を配信し、在宅中や別室登校中の児童生徒の学習機会を補償していきます。

 不登校状態が続く児童生徒に対して、ボランティア学生による「ゆうフレンド派遣事業」も継続します。

 双方向のやり取りを行い、課題を適切に提出した場合には「出席」扱いとすることにより、心身が弱りつつある児童が自分のリズムを取り戻し、不登校になることを未然に防止する効果も上げています。

 教員の働き方改革を行い、教員の子どもに向き合う時間や授業準備にかける時間を確保することも重要です。これまでの学校の常識を見直し、勤務時間の中で終わらせることができる学校業務に変革することです。教員が生き生きと仕事に取り組めてこそ教育は充実します。令和4年度は、校務支援システム導入、給食公会計化により、教職員の事務的作業に要する時間短縮と負担軽減につなげることができました。

 政府は休日の部活動について、令和5年度から令和7年度までの3年間を改革推進期間として、地域連携・地域移行に取り組む方針を示しました。本市においても「部活動地域移行推進協議会」を立ち上げ、令和5年度から本格的に取り組みます。スポーツや文化など様々な分野で活躍する地域人材が天理には多数いらっしゃり、天理らしい地域協働の部活動を目指します。

 通学路対策では、令和3年に千葉県八街市で発生した痛ましい死傷事故を繰り返さないため、市内通学路で事故現場と共通点がある南中学校前の市道176号(兵庫・西門川線)を迂回するため、市道176号の西側を南北に走る農道を新たな通学路として整備します。

 図書館の充実では、令和2年度より電子図書を導入し、読み上げ機能により高齢の方や視覚などの障がいをお持ちの方なども利用していただくことができ、多様な読書機会の確保も可能となりました。令和5年度は、社会科副読本の過去版や「てんりのむかしばなし」などもデジタル化し、児童生徒の郷土史学習にも活用します。また子どもの読書機会を増やすため、これまで実施している「おはなし会」やおすすめ本リストの配布に加えて、電子書籍を活かして各学校等図書館との連携も強化します。

第三の柱は、市民の命と暮らしを守る「安全・安心」のまちづくりの実現です。

 本市は「天理市国土強靱化地域計画」に基づき、道路網の整備や橋梁の長寿命化、地域の防災リーダーである防災士の育成や連携強化など、ハード面・ソフト面の双方で施策を計画的に推進しています。

 令和3年に大和川が特定都市河川に指定され、大和川流域浸水被害対策推進事業と奈良県平成緊急内水対策事業の一環として、浸水常襲地である庵治町の被害軽減のため農業用ため池である庵治池を治水活用する取組を進めています。令和4年度に測量設計を実施し、令和5年度は工事着手を予定しています。二階堂下ツ道・三の坪周辺では、菰池の治水活用による8,000トンの貯留と二階堂小学校雨水貯留槽設置による3,600トンの貯留により、浸水被害の軽減を図る計画を進めています。菰池の治水活用に向けて、地元協議・下流域との調整を奈良土木事務所と連携して行っており、池の構造調査や健全性の確認の作業を完了し、今後は整備に向けた設計を進め、できるだけ早期の工事着手を目指します。

 防災重点農業用ため池99箇所の内、令和4年度までに、ため池パトロール40箇所、ため池劣化状況評価22箇所を行いました。令和5年度はため池パトロール19箇所、ため池劣化状況評価19箇所を予定しており、状況によって応急的な防災工事または低水位での管理、損傷個所の保護等を行います。

 橋梁の点検は、令和元年度から2巡目の点検を開始し、令和5年度までに全322橋梁の点検を完了する予定です。また令和5年度は10 橋の設計及び修繕を行います。

 また、令和4年度はシャープ(株)研究開発事業本部が中心となり、近畿総合通信局やNTTとも連携して高解像度の8K映像と高速通信技術のローカル5Gを組み合わせたインフラ点検の実証実験を行いました。足場を組むことが大変な天理ダムの壁面をドローンで撮影し、天理市上下水道局の実験会場まで画像を届けました。今後は、画像を比較することで細かな経年劣化の様子も確認できます。検査や施工管理など効率的に実施するため、デジタル化は極めて重要であり、市としても最大限協力していきます。

 災害への備えでは、一人暮らしの高齢者や障がい者の方々、要介護者について避難行動要支援者対策に取り組んでいます。令和4年度時点で回収率72.9%、3,633名の名簿と個人プランを、災害時の避難等に役立てるため、区長や自主防災組織の会長などに保管いただいております。 今後も名簿の登録を促進するとともに、各校区で実施する防災訓練において、避難行動要支援者名簿を使っての安否確認訓練を取り入れるなど、地域と一体となった防災体制を整えて参ります。

 特に、医療的ケアが必要となる重度の障がいがある方々につきまして、非常時に電源の確保が可能となる市役所内に避難所を設け、天理地区医師会と連携しながら医療体制を整えています。

 地域防災力の中核となる消防団の強化では、消防団員安全装備品整備事業及びコミュニティ助成事業を活用し、令和5年度は先芯入り防火用安全長靴の整備を計画しています。今後も、引き続き必要な装備品を確保し、消防団の活動充実に努めます。

 防犯対策では、自治会等による防犯カメラ設置に対する補助事業を令和5年度も推進します。また市内全域において約7,000灯に及ぶLED防犯灯を維持管理しており、令和4年度は22自治会で計46灯を設置しました。令和5年度も地域実情に応じLED防犯灯設置の充実を図ります。

 特殊詐欺の被害は令和4年度に市内で10件約2千万円に上りました。約9割が自宅の固定電話にかかっており、自動録音や自動着信拒否等の機能が搭載された機器の購入費補助を令和5年度も継続します。

第4の柱は、活力ある地域社会に向けた「地方創生」の推進です。

 町の骨格となる交通ネットワークは、名阪国道や京奈和自動車道に加え、京奈和自動車道一般部の整備が進んでいます。また、市道別所丹波市線は、地元との協議により当初計画を大幅に合理化して早期完了を目指し事業を進めています。併せて、奈良県が実施する九条バイパスの整備は、令和4年度末に用地買収が進んだ路線区間の南部から着手されます。広域的な交通ネットワークの沿線では、工場施設、商業施設や宿泊施設等の土地利用が活発化の兆しを見せており、本市の事業所設置奨励金の問い合わせも増えています。

 他方で、市内には企業立地のニーズが高い準工業地域等が不足しており、市街化調整区域で農地転用を行った場合に、建蔽率が低く民間の投資に見合わない問題に直面しています。需要が高いエリアについて、市街化の編入や、本市のマスタープランで「産業振興地区」と位置付けたエリア内の建蔽率変更など、マスタープランに基づいて、奈良県とも協議しながら進めていく必要があります。時機を逸さないためには、京奈和自動車道の未開通区間と側道の整備に合わせて、戦略的に取り組むことが勝負と考えています。

 山の辺土地区画整理事業では、事業中の区域の早期完了を図り、社会情勢の変化を踏まえて未整備区域の事業見直しも進めています。市街地中心部である天理駅周辺地区では、天理駅前広場コフフンのオープンから6年目にして待望の民間宿泊施設の建設も進んでおり、令和5年度に開業の予定です。民間需要を見定めつつ、選択と集中で町づくりを進めて参ります。

 地域交流や観光振興事業は、コロナ禍の中で地域間の人の移動の制限や、三密の回避などで大きな影響を受けてきました。感染症法上の類型変更など政府の方針に則り、換気など一定の感染対策の継続を前提としつつ、市内施設の収容率を通常に戻し、飲食や発声なども規制を撤廃します。

 天理駅前広場から本通り商店街、なら歴史芸術文化村、トレイルセンター、柳本駅を含めた山の辺の道の南ルート、和爾下神社や櫟本公民館を通り奈良市に連なる山の辺の道北ルートを、ソフト事業により改めて点から線、そして面で活性化させることが重要です。

 令和3年度に県が開業した「なら歴史芸術文化村」では、イチゴや柿、トマト、ナス、ホウレンソウなど本市農産品も多数取り扱う道の駅がコロナ禍でも盛況で、隣接する本市の観光駐車場も週末には一杯の状態です。遺物の修復作業の様子、また仏像・歴史的建造物・絵画等の修復作業も見学でき、入居する本市文化財課も連携して天理の古墳文化を発信する展示会・講演会などを開催しています。

 令和4年度には、本通り商店街の「アートスペースTARN」も20組を超えるアーティストや芸術団体に利用いただき、のべ4,500名以上の方に来館いただきました。高校生による映像制作など活用の幅が広がり、令和5年度はデジタルアートのワークショップも企画しています。文化村主催の「アーティスト誘致交流事業」や、「奈良・町家の芸術祭はならぁと」など文化芸術の力で、本通りと山の辺の道をつなげる取組も進んでいます。天理教青年会や商店街有志に市も協力し、撮影スポットとして近年人気が高まっている親里大路の銀杏並木を歩行者天国として、本通りのイベントと相乗効果を図る新たな展開も生まれました。

 天理市の新たなキャチコピー「Time Travel City」に因んで、子ども達が郷土史を掘り起こした研究発表や、天理青年会議所、「山の辺ミュージカルの会」など、市内団体が文化村を活用する機会も徐々に増えています。

 ハード整備に対する県内の厳しい見方に対して、本市をはじめとする地域が文化村を活かす余地はまだ十分残っており、本年2月には指定管理事業者である「ネクスト・アクシス」と連携協定を締結しました。協定式では、近鉄沿線の特別列車運行イベントと一体的に組み合わせた斬新な企画が開催され、北海道からの参加もありました。今後は宿泊施設「フェアフィールド・バイ・マリオット」も含め、奈良県内からの人の流れをどう市内に循環させていくかに注目して取り組んで参ります。

 関西では、令和7年に予定されている「大阪・関西万博」に向けてインバウンド復活も絡めた観光戦略が次々に打ち出されています。そうした大きな波の中で、本市が存在感を発揮して人を呼び込み、そして地域の活性化につなげるためには、「付け焼刃」ではなく天理が持つ世界に通用する宝物を活かしきることが重要です。

 令和4年度は、天理市と天理大学、JTBによる「天理市スポーツツーリズム」のモニタリングツアーを実施しました。トップアスリートの合宿と観光の連携、ファミリー向け柔道体験ツアー、ワーケーションツアーなど多様な 団体の参加を得て、手ごたえを感じています。旭化成柔道部の監督からは、「地域の歴史や文化に触れることは、人としてまた柔道家の成長につながる。今回の体験は貴重なものとなった」と感想をいただきました。ワーケーションに参加されたANAグループや首都圏のIT企業の受入れ時には、天理大学柔道部の穴井監督に講話をお願いしました。「礼の精神を通して人との関り方など、職場や日々の生活において多くのことを学んだ」など、企業研修や経営者合宿にも非常に有意義との評価を頂きました。スポーツツーリズムには、石上神宮の朝拝などの宗教文化に加えて、ラテアート体験など市内企業との連携も多く盛り込んでおり、まだまだ掛け算が可能なコンテンツが溢れています。

 ハンガリーやエジプトなど海外の柔道ナショナルチームの受け入れも再開しました。スポーツ庁から、本物の武道に触れることができる場所はまだまだ少ないとのコメントを頂いており、インバウンドに対して非常に訴求力の高いコンテンツになると確信しています。柔道の他にも、台湾の高校生ラグビーチームの合宿も再開されました。令和5年度は、天理大学や各競技団体と協力しながら、他競技への展開も図り、将来的な収益性の確保を目指します。

 天理大学の語学力やスポーツをはじめ、「国際性」は紛れもなく天理の貴重な財産です。ロシアのウクライナ侵攻に際し、本市は天理大学とともにウクライナ人家族と留学生を計12名受け入れました。多くの市民や企業の御協力も得て、スピードと生活支援、就業支援など何れにおいても、国内で最もきめ細かく対応できていると自負しています。また、中川政七商店や天理ユネスコ協会と連携した文化プログラムを実施し、避難民の受入れに留まらず、将来に向けたウクライナとの親善強化にも寄与しています。

 令和4年度は、子どもたちの開発教育を通じて交流していたJICA関西・天理大学・本市の三者協定を締結しました。令和5年度は、エジプト政府の要請に基づく同国柔道ナショナルチーム強化のため、天理大学柔道部の学生・卒業生がJICA海外協力隊としてエジプトに派遣される予定です。

 日韓関係の複雑化により姉妹都市交流が残念ながら停止されてきた瑞山市からも、2月に教育長と副市長を迎え、先方中学生の受入れをきっかけに交流再開の糸口を探っています。活性化のためだけでなく、天理が国際平和に貢献し、子ども達を含めて市民がそこから学び誇りを感じられる取組を目指します。

 活性化と暮らしの豊かさの相乗効果を図る事業として、令和4年度は農業と観光を組み合わせ、ベンチャー企業「おてつたび」と新たな旅行商品を開発しました。刀根早生柿発祥の地・萱生町では農繁期の人出不足のため、放棄地が増加する一方で、営農を継続されている方も耕地を 拡げられずにいます。そこで10代~80代の25名を3軒の農家に派遣し、休日や農作業の合間に市内観光を楽しむ企画を実施したところ、農家と参加者双方から好評を得て、関係人口を創出する効果が確認できました。令和5年度は募集を40名に増やし、受け入れ農家を拡げます。

 

 また市内の若手就農者集団「4Hクラブ」も、新しい作物等に挑戦して収益増につなげるため、市内企業と連携して「チャレンジファーム」を立ち上げました。畑地化した水田に、温度や湿度などのセンサーを備えたビニールハウスを設置し、「大和スイカ」の復活を目指して苗の植え付けなどの準備を進めています。令和5年度は新たな「大和スイカ」のブランド化を図り、コーヒー栽培なども視野に 事業を拡げる予定です。就農者の高齢化が長年課題となる中、若手によるスマート農業へのチャレンジを市も最大限支援します。

 有機農業を核とした地域の活性化は高原地域にも広がっています。大和高原「福住村プロジェクト」では令和4年度、市内の大和農園が開発した大根を有機栽培し、無印良品の県内店舗で販売し、完売御礼となりました。高原地域で放棄茶園を活用する「健一自然農園」は、地元住民や子育て世代の移住者等と協力して、福住・山田地区の茶畑でも取組を開始しました。令和5年度は、農水省が進める「みどりの食料システム戦略」におけるオーガニックビレッジへの採択を目指し、有機たい肥の製造にも取り組みながら、里山との共生や循環型の地域づくりを進めます。

 同プロジェクトには、大阪・関西万博の署名パビリオン・プロデューサーを務める河瀨直美監督が企画に関わって下さっており、なら国際映画祭と連携したPR映像の作成なども行っていきます。

 脱炭素化が国際社会で最重要課題の一つとなる中、本市は令和3年に「天理市ゼロカーボンシティ宣言」を行いました。令和5年度は、旧福住中学校跡地で間伐材や農業残渣を利用したバイオ炭の製作に取り組みます。また、南中学校屋上に太陽光発電システムを設置する事業が3月4日に竣工しました。

 ただし、太陽光発電については、不適切な森林の伐採や無理な盛土などにより、環境破壊や災害発生が懸念される事例も奈良県内外で見られます。本市は、令和4年に施行した「天理市太陽光発電設備の適正な設置及び管理に関する条例」に基づき、適切な設置について指導を行います。奈良県も同様の関連条例を制定する見込みであり、本市も県と連携を図って参ります。

 また本市は本日3月6日付で「プラスチックごみゼロ宣言」を行います。「分ければ資源、混ぜればゴミ」を広報して、リサイクルの徹底に努めるとともに、布留川や大和川の一斉清掃などでプラスチック資源の回収を強化します。また、リサイクルやアップサイクル商品、マイボトルの使用などを啓発し、市役所においてインクカートリッジの回収なども進めます。

 持続可能な環境の保全のために本市が取り組む最大のプロジェクトは、10市町村で構成する山辺県北西部広域環境衛生組合の新クリーンセンター事業です。

 4年間の環境影響評価を経て、令和4年度はエネルギー回収型廃棄物処理施設とマテリアルリサイクル推進施設とともに工事に着手しました。環境負荷を極力低減してゴミを処理するだけでなく、現時点で国内最高レベルの熱回収による発電や、地域の交流拠点かつ災害時には防災拠点として活用できる温浴施設を備えた施設を建設します。

 啓発施設では、環境学習の場を提供します。令和4年度に、俳優の加藤雅也氏の協力を得て、櫟本小学校と二階堂小学校ではサスティナブルアートの授業を開始しており、新クリーンセンターでもワークショップなどを企画する予定です。

 物価高騰に伴うスライド条項により多額の事業費増額も見込まれますが、国補助金の確保に10市町村一体となって取り組み、周辺地域の市民との信頼関係を第一に、令和7年4月の竣工を目指して参ります。

第五の柱は、新しい時代に適応した持続可能な「行政サービス」の実現です。

 本市はNTT西日本と連携し、行政手続きをオンライン化する「デジタル市役所」事業を進めてきました。窓口業務では、転入・転出、各種証明書発行などの手続きが、事前にスマートフォンなどから簡単に申請できるようになりました。マイナンバーカードで本人確認すれば、転出届は来庁することなく手続きが完了します。また、来庁する場合でも、申請情報をデジタル化し、関係課で共有することで手続きの簡略化を図り、オンライン申請者については、市役所での待ち時間は3分の1に短縮しました。

 さらに、令和4年度末から政府のオンライン申請「ぴったりサービス」を利用して、子育て業務15手続き及び介護業務11手続きを追加し、サービスを拡大します。

 全国で促進された本市マイナンバーカードの申請率は、直近のオンライン申請を除いた本年2月末時点で84%を超えています。全国平均を大きく上回り、県内自治体ではトップレベルです。保険証や免許証としての利用をはじめ、政府はマイナンバーカードを「デジタル社会のパスポート」と位置付けています。未だ活用方法が十分国民に共有されていないとの批判はあるものの、今後の最新動向を注視して積極活用して参ります。

 RPA及びAI-OCRの利用促進については、課税業務・人事業務・ふるさと納税受付業務・医療費の償還払い業務・学校給食関連・市政アンケートの集計業務・価格高騰緊急支援給付金など毎年利用範囲を広めています。導入した事務では、概ね年間の所要時間を7割程度削減できています。令和5年度は、介護認定や介護給付関係書類の入力、健診問診票の入力などでも活用する予定です。

 また、デジタルが苦手な市民に対して、パソコン・スマホ教室などを積極的に開催することで、誰もが安心して利用でき、ひとりでも多くの皆様に日々の生活の中でデジタル技術を活用していただけるよう取り組みます。

 冒頭にも触れたファシリティ・マネジメントでは、「公共施設等総合管理計画」や「公共施設個別施設計画」おいて既存施設の維持管理について財政的な試算を行い、今ある施設を現状のまま維持することは現実的に不可能と結論付けています。

 同じ場所に同じ規模のものを造り直すというこれまでの発想を変えることはもちろん、施設と市民サービスを固定的に捉えることから脱却しなければなりません。これまでにも、校舎の学童利用、「福住小中一貫校」や幼稚園・保育所の「こども園化」などの複合化を推進し、市にとって負担が少ない起債を活用して財源を確保することで、耐震化の達成や待機児童の解消などを進めてきました。コロナ禍において教育現場と学童指導員が連携強化できたように、場所を共有することは単に予算を削減するだけでなく、縦割りを超えて市民サービスをより良いものにしていく効果があると確信しています。

 市民会館をはじめ近い将来に耐用年数を迎える老朽化施設や、すでに利用を停止しながら解体費用を捻出できずに置いている施設などを多数抱えているのが現状です。守るべきは、施設そのものではなく、サービスであることを根本において、市施設全般の見直しを行い、議会とも率直にご相談して参ります。

 以上、新年度の市政方針及び重点項目の概要を申し上げました。

 長く苦しかったコロナ禍というトンネルの先に、明るい未来が拓けていることを、この3年間願わずにはおられませんでした。しかし、現実を直視したこの施政方針では、必ずしも明るい展望ばかりを申し上げられていないことを自覚しています。

 人は往々にして正常化バイアスにより現状分析を楽観的に行い、うまく行かない場合や予想に反した場合に途端に悲観に陥りがちです。天理市は違います。現状分析は冷徹なまでに客観的に、悪い流れも悲観的に想定して心積もりします。そして、決して諦めることなく立ち向かい、道を切り拓くに当たっては楽観を失わず果敢な挑戦を続けます。

 令和一桁の時代はもう半分が過ぎようとする中、令和10年代、2030年代に責任をもった市政を創るのは今をおいてありません。

 市議会と市政は共に市民の代表であり、「車の両輪」です。認識がずれて歩みのペースが狂いますと、市が前に進んでいくことはできません。市民との「共創」の精神に常に立ち返りながら、精一杯努力して参りますので、本予算案を慎重にご審議いただき、ご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げます。

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