共創8年の歩みと、これからの市政について(その二)

「共に支え合う」福祉の分野では、全国的にも新しい発想で、地域や民間との連携を深めてきました。その一つが、全国初の「成果連動型事業」として進めてきた活脳教室です。

要介護の認定者は、本市でも増加傾向です。認定申請者の約半数に、日常生活に支障があるレベルで認知症の傾向があり、認定理由のトップは認知症です。身体的な衰弱が無くても、認知症が進行すればご本人の生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)への影響はもちろん、ご家族や介護職の皆さまのご負担も重くなっていきます。早期発見・早期対処により維持改善に向けた取組を行うことが重要です。

公文教育研究会と東北大学が共同で、読み書き計算等の反復により軽度認知症の予防改善に効果がある手法を開発され、平成27年度から本市での取組が始まりました。

一般的な行政の手法では、実施に先立って予算を組み、支出が前提となります。そのため、期待された効果が本当に達成されたのか、議論の対象になります。90年代以降、PDCAサイクルも含め行政評価が、政府・自治体に導入されてきましたが、事後に定量的な評価が難しいことも少なくありません。
本市の「活脳教室」では、第三者機関である慶應義塾大学が、受講生の皆さんの検査結果から8割以上に維持改善が見られたと判断した場合に、パートナーである公文教育研究会に、本市から支払いを行います。そのため、事後的に「投資に見合う成果があったのか」と議論する必要がありません。

「民」が本気感をもって官民連携に取り組むためには、単なる「慈善」や「社会貢献」でなく、ビジネスの観点からメリットを創出する必要性を「官」も理解することが重要だと考えています。市の福祉目的はもちろん、慶應義塾大学にとっては自身の研究に資すること、公文研究会にとっては、子ども以外の新たな市場開拓と、三者三様に利点を見いだせることが、活脳教室の推進を支えています。

また、活脳教室が市内に広がることができたのは、地元有志のサポーターの皆さまの熱意と献身的な活動の賜物です。多くの受講生は、サポーターとの会話やコミュニケーションを一番の楽しみに継続くださっています。事業を開始した時に、検査測定値が良い結果であるだけでなく、受講生の表情や服装まで明るくなってこられる方が多数いらっしゃり、私たちも公文さんも驚きました。

「活脳教室」は約半年のプログラムですが、受講期間だけでなく、生活習慣に定着させ、中長期にわたって「クオリティ・オブ・ライフ」の向上につなげていくことが重要です。卒業生やサポーターの皆さまは、各校区で「活脳クラブ」を立ち上げ、自主的な活動として継続下さっており、地域の力で活脳の輪が広がっています。
活脳教室をきっかけとして、他の企業との間でも、睡眠データの活用や、フランス発のケア手法の導入実証など、先端分野での新たな連携が生まれました。そこからさらに、行政デジタル化での協力に発展するなど、福祉以外の分野にも効果が連鎖しています。

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暮らしを支える他の連携事業では、ならコープによる移動販売も進展しました。
地方都市において、車で大規模店舗に買い物に行く生活スタイルが普及しましたが、高齢化によって、免許を返納される方等がお困りになる「買い物弱者」が社会問題になっています。日用品等を扱うお店が遠くなってしまったエリアで、お店を市が「誘致」できないか、というリクエストも頂きます。しかし、無理にお願いしても、ご商売が成り立たなければ継続することはできません。そこで、移動販売の充実、エリアの拡大から本市では取り組みました。

移動販売事業にとって課題になるのは、安全にお客様にお買い物いただける場所の確保です。路上では、どうしても一定の危険があり、トラブルも懸念されます。市とならコープとの連携協定では、市立公民館の敷地も含めて、場所の確保を行いました。各町自治会館なども積極的に開放いただき、住民への周知や声掛けにもご協力願っています。

従来の行政の発想では、公民館の土地などを、営利行為に使うことはできない、と考えられていました。単に、ならコープが「もうける」と言う見方であれば、そうかもしれません。しかし、買い物弱者への支援と言う社会的課題を、官民が協働して解決する、という視点に立てば、全く発想は異なってきます。

市南部の朝和校区と柳本校区で開始した連携事業は、採算面でも順調に事業として成立し、高原地区の福住校区にも移動販売を広げることができました。そして、コロナ禍になり、高齢者が町中の店舗まで買い出しに行かれることを心配されていた時期に、地元で買える移動販売は大変喜ばれました。

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上記の2つの事例は、福祉施策の一端です。

他にも、この8年間では医療と介護をつなぐ地域包括ケアの拠点として市立メディカルセンターを整備しました。同センターと各地域の公民館や集会所を結びながら、介護予防リーダーを中心に、市民協働による健康づくりの取組が広がりました。また、情報通信技術を活用し、ケア情報を医療と介護の現場が共有する事業も着実に進んでいます。介護では、小規模多機能型居宅介護施設を市全域で整備し、訪問介護看護サービスとの併設も開始しました。
また、日常生活上のちょっとした困りごとを解決するため、生活支援コーディネーターが、高齢者とボランティアを橋渡しする事業も開始しました。若い世代が、ボランティアに積極的に参加下さっているのも、天理のすばらしい点の一つだと考えています。

当事者とご家族、医療介護従事者、行政、地域、民間企業、関わる全ての皆さんがチームとなり、それぞれが「自分事」として取り組むことが、これからの福祉にとって最も大切です。コロナ禍の中で、集いの場には制約もありますが、支え合う地域社会を再構築していくために、引き続き全力で取り組んで参ります。
(※写真は、コロナ前に活脳教室で撮影したものです)

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