共創8年の歩みと、これからの市政について(その一)

4年に一度、市民のご負託を得られるように取り組む機会は、これまでの歩みを省みつつ、これからの市政についてご説明し、心を合わせていく貴重な時間だと考えています。
私が市政をお預かりしてからの8年間を振り返りますと市民協働、官民連携、国や周辺自治体とも連携し、毎年約10億円の黒字決算で「やりくり」しながら、安心安全、「支え合い」の町づくりを進めてきました(令和2年度11億円黒字)。「借金」が財政に影響する将来負担比率も、8年間で約半分に改善しました(101.9%→56.2%)。
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例えば、子育ての分野では、多くの施設が老朽化し、安全確保の点でも長年の課題が山積していましたが、以下のような成果を出すことができました:
●小中学校の100%耐震化達成。プレハブ校舎が多くあった前栽小学校や、山の辺小学校体育館、柳本幼稚園、嘉幡保育園等の建替えや改修を実施。北・南中学校も改築を実施中。
●学童保育の受入れ倍増(約8百名)。小中学校、幼稚園にエアコン整備、トイレ洋式化も実現。学童は、空き教室を活用することで、1施設当たりの整備費用を大幅に削減し、教員と指導員の先生方との連携も進みました。
●児童生徒1人1台のタブレット配備、全校でオンライン授業に対応中
いずれも、数億円〜数十億円がかかる事業ですが、現在のニーズに合わせて整備対象を合理化し、市にとって有利な補助金や起債(ローン)を活用しました。前栽小学校だけでも、合理化できた予算は、天理駅前広場コフフンの総工費を上回りました。また、子ども達の安心安全を確保し、できるだけ良好な環境を保つことは、街づくり全体の観点からも、非常に重要と考えています。


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他方で、天理市の財政は、「全国的にも非常に悪い」というイメージをお持ちの方が少なくありません。それは「経常収支比率」という一つの指標が、奈良県でも最も深刻なレベルであるためです。この経常収支比率は、確実に見込める収入と、義務的に支出する必要がある歳出を比較したものです。数値が高いほど財政は硬直化し、将来への投資などに回す余裕がないことを意味します。
ですから、数値は低い方が、施設や道路の老朽化対策、活性化事業などにも支出しやすくなり、市の運営は楽であることは間違いありません。けれども、市民サービスの点では、内容をよくご覧いただくことが重要と考えます。
総務省が公開している「市町村経常経費分析表」では、天理市の財政構造が、同規模の自治体と比べて、人件費、特に教育福祉分野で一番大きな乖離があることが明らかです。具体的には、以下のように説明されています:
「職員数が類似団体と比較して多いことが、経常収支比率の人件費分を高くしている要因である」「これは、直営で運営している保育所及び幼稚園といった福祉・教育施設の数が多いため、それに比例し職員数も多くなっているためである」
もし、客観的なデータに基づいて、経常収支比率を非常に安直に改善しようとすれば、先ず類似団体と比較して「割高」になっている公立の教育・福祉施設を縮小し、人件費を削減できないか見直す、ということになります。資料を一見して、就任以前からこの点は認識していました。しかし、それは、本当に市民サービスの向上につながるでしょうか。
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家庭のあり方が多様化し、共働きやひとり親のご家庭をお支えするニーズは高まっています。私立法人の皆さまも、大変熱心にご貢献くださっていますが、経営的な観点から、国の基準より多くの人員を配置することには一定のハードルがあることも事実です。様々な特性を持つ子ども達も増えている中、できるだけきめ細やかに対応していくには、私は公立が果たすべき役割も重要であり、財政の観点からのみ、安易に削減することは適当でないと考えています。
もちろん、破綻して市民サービスを一方的に削減するような事態があってはなりません。現状に即しているか、持続可能かどうか、に十分留意して運営していくことが大切です。
そこで、待機児童の解消に向けては、幼稚園の人数が急激に減少していることから幼保の再編に着手しています。来年春(令和4年度)から、前栽幼稚園をこども園化し、また丹波市幼稚園と南保育所を合わせてこども園にします。これによって、大幅に運営コストを上昇させたり、新しい施設を作らなくても、約60名の公立保育枠を増加できます。また、令和5年4月には、民間保育所1所も新設予定ですので、合わせて約140名の定員増を1年半後に実現できます。
また、限られた人員でも、子ども達や子育て家庭の皆さまに向き合う時間をできるだけ優先できるよう、保育所事務のデジタル化を進め、10月からは保育所申請のオンライン化も開始しました。
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切り捨てるだけの「行革」は、本来の行政の姿ではない、と思い続けて市政を運営して参りました。皆さまからお預かりしている公金と権限の範囲内で工夫を重ね、社会情勢の変化に合わせて旧来の枠組みを柔軟に再定義し、今あるものも有効に活かすことが大切です。
また、放課後の子ども達の学びを地域で育んできた櫟本校区の「町力塾」や、コロナ禍の中で受験生支援と学生支援をかけ合わせた「学び支え合い塾」のように、市民の皆さまと「支え合い」の輪を広げていくことによって、子育て環境を向上させていくこともできます。
「共に創る」ことを、子育て以外の施策でも引き続き市政の要にして参ります。(続)

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