令和3年度施政方針「傷つけ合うより支え合い」「支え合う持続可能な共生都市に向けて」

◆ はじめに(総論)

==新型コロナウイルス感染症への対応==
新型コロナウイルス感染症の世界的流行が、私たちを襲ってから1年が経過しました。お亡くなりになった方々に心からお悔やみ申し上げますとともに、療養中の皆さまのご快復をお祈りします。また、命を守るため日夜治療や看護に当たられている医療従事者に対して、敬意を表し、感謝致します。
新型コロナウイルス感染症の影響は、疫学の分野に留まらず、人間社会のあらゆる活動に及び、私たちの日常で「当たり前」だったことが、当たり前ではなくなりました。感染対策を最優先せざるを得ない一方で、社会経済活動は大きな犠牲を強いられています。
この間、本市は、市民の暮らしに一番近い基礎自治体として、市民の命と暮らしを守ることを最優先に取り組んで参りました。大橋議長はじめ市議会、また市民の皆さまには、行政と共に「三位一体」となってご協力いただき、改めてお礼申し上げます。
取り分け、天理地区医師会との連携によって「天理地区PCR検査センター」を開設し、保健所を補完する独自の検査体制を取ることができました。
学校や児童施設等で感染が発生した場合にも、早期に拡大防止の対策を取り、子ども達やご家庭への影響を最小限にする努力を続けています。
 
市内で集団感染が発生し、大学生等への不当な扱いが生じた際には、いわゆる「コロナ禍」は、私たちが不安から他者を過度に警戒し、互いに傷つけ合うことによって、社会経済の傷を深めてしまう、人間社会の「心の問題」である、と全国に向けて訴えかけました。多くの方が共感を寄せて下さり、教育実習で起きていた問題を是正することができました。
本市がこれまで重視してきた「支え合い」の精神を、新型コロナ対策でも取り入れ、「天理支え合い券」や「天理まなび支え合い塾」などの独自の支援を実施してきました。令和3年度も、「傷つけ合うより、支え合い」をテーマに、市民生活にコロナ過がもたらす影響を少しでも和らげるための努力を続けて参ります。

本年1月には、私が本部長を務める「天理市新型コロナウイルスワクチン接種実施本部」を設置しました。天理地区医師会のご協力を得て、個別接種と集団接種の両方を実施し、きめ細かく対応できるよう準備を進めています。
ワクチンが供給され次第、コロナ禍の終息を目指して、希望される全ての市民に、円滑に接種を実施できるよう、最優先課題として取り組みます。

==多様性を尊重する、持続可能な共生社会に向けて==
新型コロナウイルス感染症は、人間社会の脆弱さと自然との関わりについて、問い直す機会ともなりました。感染状況に関わらず、度重なる自然災害や異常気象が、私たちの暮らしを脅かし続けています。未来にわたって、私たちの社会が持続していけるのか、2030年はその「分岐点」と言われています。

コロナ後の社会は、元の経済や生活に単に戻っていくのではなく、脱炭素化や生物多様性の保全を経済復興の大きな柱とする「グリーンリカバリー」が国際社会で提唱されています。また、デジタル社会への移行により、産業構造を変革し、少子高齢化や生産年齢人口の減少を含む社会課題を解決するデジタルトランスフォーメーション(DX)が、コロナ禍を機に急速に進展すると期待されます。

本市は、令和元年度に策定した「第6次総合計画」において、私たちの町の将来像を、「大和青垣に囲まれた歴史と文化かおる共生都市・天理~創り、つながり、笑顔広がる、多様な連携で共に支え合うまち~」、と掲げました。
コロナ禍の中で、多くの人が、地方での暮らしの豊かさを見直しています。
「グリーン」と「デジタル」を新たな負担としてではなく、天理の未来を切り拓いていくチャンスと捉え、行動していかなければなりません。
令和3年度は、「デジタル市役所」への転換を果たし、また二酸化炭素排出量の実質ゼロを目指す「ゼロカーボンシティ宣言」に基づいて地球温暖化対策に取り組んでいく重要な年となります。これまでの1年間は、コロナ禍によって、人と人が距離を取ることを強いられてきました。
地域の絆をより太いものとしながら、民間事業者との連携や先端技術の導入も織り込み、福祉や子育てをはじめ、暮らしを「支え合う」ネットワークを再構築していきます。
その前提として、性別や価値観、ライフスタイルが存在する中、「異なる」ことを否定するのではなく、互いを尊重し合い、多様性を力に変えていくことが不可欠です。多様な性的指向、性自認を理解し認め合い、自分らしく生き、パートナーや家族をつくっていける社会としていくために、本市においても「天理市パートナーシップ制度」を導入します。

令和3年度を、共に創る「共創」と「支え合い」の町づくりの新たな幕を、力強く開いていく一年とすることをお誓いします。

施政方針
==持続可能な財政運営を目指して==
令和3年度という一年の基本認識に続き、財政状況についてご説明します。
先ず歳入は、新型コロナウイルス感染症の影響により大幅な市税収入の減少などが見込まれており、国の地方財政対策により地方交付税等が措置されるものの例年にない厳しい状況が予想されます。これに加えて、天理教教会本部では、感染対策のために帰参の自粛を呼び掛けられ、各種行事も中止されました。その影響により、既に減少することが見込まれていた寄附金がさらに大幅に減少せざるをえず、3億円を見込んでいます。
歳出では、毎年増え続ける社会保障関連経費に加え、北中学校及び南中学校建設事業の本体工事、幼保再編に伴う工事費を計上しています。また、他の学校施設やごみ焼却施設などの老朽化している施設・設備の修繕費用も必要です。
令和2年度当初予算と比較して、令和3年度はさらに数億円規模の財源不足が見込まれましたが、退職手当の減少を含め人件費の合理化を進め、下水道事業会計への繰出金の減少や起債等による財源を確保することにより、何とか歳入歳出のバランスをとることができました。
ただし、令和4年度以降も北中学校の建設事業が継続し、新クリーンセンターの建設事業も本格化します。さらに、北保育所の建替えをはじめ、公共施設の老朽化に伴う改修等が予定されており、公債費の増加は覚悟せざるをえません。

このように極めて厳しい財政状況の中、市民の安全・安心を守り、暮らしを支える持続可能な行政運営を維持するためには、「財政構造改革2019」をより大胆に進め、令和一ケタの時期を乗り越えていかなければなりません。
乗り越えるだけでなく、持続可能な行政に進化していくことが重要です。

令和3年度中に実現を目指す「デジタル市役所」への転換では、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)等による個別業務の自動化・効率化に留まらず、市役所のあらゆる分野において包括的に電子申請やAIの導入を行います。転出入や出産、死亡など多くの窓口にまたがる手続きも、一連の事務を横断的にデジタル化します。手書きの申請であっても、画像を読み込むことで内部処理をデジタル化し、重複した記入を省き、待ち時間を削減することができます。
高齢者などのいわゆる「デジタル弱者」を含めて、誰も取り残さないデジタル化を目指します。
デジタル化により、市職員の事務負担を軽減するだけでなく、対面での対応をより丁寧に行い、より良いサービスを企画立案する余裕を生み出すことができます。市民にとっても、電子申請やオンラインでの相談は、申請や来庁の手間を省くことを可能にします。子育て世代が、保育所の申請のために仕事を休んでいただく必要もなくなります。
経常収支比率が厳しい本市にとって、行財政改革を進めながら、市民サービスをよりきめ細かく質の高いものとするために、デジタル化は最も有効な手段です。
政府においても2025年までの自治体のシステムの仕様統一や、マイナンバーの活用など、行政デジタル化の加速が検討されており、本市も情報収集のアンテナを高く張り、先駆けとなるべく取り組んでいきます。
老朽化が進む公共施設を一元的、効率的に管理更新していくファシリティ・マネジメントについても、本市は人口動態に合わせた公共サービスの維持・向上の視点から、個別施設計画を策定しました。
令和3年度より先行実施する福住小中一貫校化事業では、維持費を含めた経費の縮減に加えて、小規模特認校を活かしたきめ細やかなアダプティブラーニングや小中連続したカリキュラムにより、教育の質向上に努めています。
「安かろう悪かろう」の行革ではなく、ハード整備の合理化を、サービスの充実につなげていくことが重要です。丹波市幼稚園、前栽幼稚園、南保育所で進めている幼保の再編でも、公共施設等適正管理推進事業債の活用によって本市負担を大幅に軽減しながら施設を更新するとともに、限られた人員と財源の中、長年の幼児教育と保育の壁を超えて、新たな就学前の育みの場を作っていきます。
コロナ禍を受けて、都市部ではテレワークや地方への移転等を通じて、オフィスに対する考え方が激変しています。デジタル化によって、今後は公共施設の活用方法や必要面積も大きく変わっていくことが予想されます。本市では、従来の使用方法にこだわらず、市民・利用者目線から公共施設を「使い倒す」ことをファシリティ・マネジメントの柱として参りましたが、令和3年度からはデジタル化を新たな柱に加え、中長期的な視野に立って、公共施設の最適化を図って参ります。

◆予算の全体像(フレーム)
このような認識の下、議案第6号、令和3年度天理市一般会計予算(案)についてご説明します。一般会計の予算額は、歳入歳出とも273億2千万円、前年度比で24億3千万円、9.8%の増加となりました。

◆歳入
歳入について、市税は、新型コロナウイルスの影響により、個人・法人市民税ともに大幅に減少すると見込んでいます。固定資産税も、土地・家屋の評価替えにより減収となると見込んでいます。市税総額は、71億1,200万円となり、前年度比5億900万円、6.7%の減収となる見込みです。
寄附金は、一般寄附金が2億円減の3億円、ふるさと天理応援寄附金が35百万円増の1億15百万で、寄附総額は4億15百万円となり、前年度比1億65百万円、28.4%の減収となる見込みです。
地方消費税交付金は、新型コロナウイルス感染症の長期化により消費が低迷した影響で13億1,900万円となり、前年度比1億4,600万円、10.0%の減収となる見込みです。
地方交付税は、基準財政収入額が大きく減少することから、57億7,600万円となり、前年度比2億5,200万円、4.6%の増収となる見込みです。
国庫支出金及び市債は、南北中学校及び幼保再編に伴う建設事業等により大幅な増加となり、国庫支出金が41億2,800万円で、前年度比3億8,000万円、10.1%の増、市債は40億4,700万円で、前年度比24億7,400万円、157.2%の増となる見込みです。
これらの建設事業等は、いずれも市民の命と安全・安心を確保するために先送りすることなく取り組むことが必要なものであり、将来世代への負担を極力抑えるよう、ダウンサイジングを図るなど事業内容を精査し、国の経済対策等を踏まえて、国庫補助金の活用や償還時に地方交付税措置等のある有利な起債の活用に努めています。

令和3年度末の一般会計における市債残高は、253億100万円となり、過去に借り入れた市債の償還元金を差し引きすると、前年度に比べて14億4,900万円増加する見込みです。
令和2年度の市債元利償還金は、臨時財政対策債を含め約27億円となっていますが、このうち約47%は普通地方交付税の基準財政需要額として算定されています。
毎年4億円弱を計上している土地開発公社解散に伴う第三セクター等改革推進債の償還が令和5年度までとなっており、未利用地の売却益を積み立てている減債基金からの取り崩し額を前年度比1億1,000万円増の1億5,000万円としています。

これらの工夫により、財政調整基金の取り崩し額は、前年度に比べて6,000万円減の6億8,000万円で、令和3年度末の財政調整基金残高は、一時的に3億7,000万円となる見込みですが、決算時には5~6億円程度の積み増しがあるものと想定しています。

◆歳出
次に、歳出について申し上げます。

歳出全体の39.9%を占める民生費は、108億9,800万円、前年度比2億9,900万円、2.8%の増加となっています。
幼保再編に伴う南保育所の改修工事費、老朽化による北保育所の設計委託料及び朝和保育園建替工事補助金などの保育施設の整備に係る費用などにより増額となっています。
衛生費は17億7,100万円で、老朽化が激しい、ごみ焼却施設やし尿処理施設の受入貯留槽等の修繕に係る費用の増加、新クリーンセンター建設に伴う費用の増加などにより、前年度比8,600万円、5.1%の増となりました。
商工費は、2億4,300万円で、企業立地支援条例適用による事業所設置奨励金の増加などにより、前年度比9,000万円、58.5%の増となりました。
土木費は23億1,700万円で、都市公園整備工事費及び下水道事業会計繰出金の減少等により、前年度比8,600万円、3.6%の減となりました。
教育費は49億2,900万円で、南北中学校の建設事業及び前栽幼稚園のこども園整備事業による大幅増により、前年度比20億4,800万円、71.1%の増となりました。

歳入歳出予算の全体像は以上のとおりです。予算規模は、前年度と比較して24億3,000万円増加し、273億2千万円となりましたが、扶助費等年々増加の一途をたどる社会保障経費の増加分に加え、南北中学校及び幼保再編に係る建設事業等、老朽化した施設の整備費用が約31億8千万円を占めており、これらを除きますと、緊縮型の予算編成となっています。

コロナ禍の中、極めて厳しい財政状況にあっても、市民の命と暮らしを守り、安全・安心を確保するため、「福祉」「教育」「安全・安心」に関する施策を中心に、「共に支え合うまち天理」の実現に向けた取組を推進していきます。この考えに沿って、令和3年度予算案では、5つの重点項目を設定しています。
第一に、誰もが地域で安心して健やかに暮らせる「福祉」の充実
第二に、地域と共に、一人ひとりの豊かな未来を育む「教育」の充実
第三に、災害や社会変容に備えた「安全・安心」して暮らせる町づくり
第四に、ポストコロナを見据えた持続可能な行政サービスの実現
第五に、オール天理で取り組む地方創生の推進
以下、項目ごとに主要な事業をご説明します。

◆重点施策、主な事業
1.誰もが地域で安心して健やかに暮らせる福祉の充実
第一の柱、「誰もが地域で安心して健やかに暮らせる福祉の充実」では、引き続き感染対策を行いながら、コロナ後も見据えて地域や民間の多様な主体と連携し、医療と介護をつなぎ、支え合いの絆を太くしていきます。
全国初の成果連動型福祉事業として本市が取り組んでいる認知症予防施策「活脳教室」は、令和2年度も感染対策を行いながら5教室を開催し、令和元年度の卒業生による活脳クラブも6会場で継続しています。
活脳教室を基軸とした先端技術との連携も広がっています。令和2年度は、「ICTによるまちづくりに関する包括連携協定」を締結したNTT西日本と協働し、活脳教室参加者の協力を得て、睡眠マットによる軽度認知障害(MCI)検知エンジンの開発のための実証実験を行いました。令和3年度は、認知症の症状だけでなく、身体的な虚弱傾向も検知し、改善に向けての行動変容につなぐ技術の検証を行う予定です。NTT西日本とは、高齢者世帯の見守りについても新たな連携分野を協議しています。
また、経済産業省による、認知症共生社会に向けた製品・サービスの効果検証事業に参画するベンチャー企業「エクサウィザーズ」とともに、認知症の方を介護する家族の負担軽減を目的としたケア手法の実証実験を、3月より開始します。
これらに加えて、認知症初期集中支援チームや認知症サポーターを中心としたチームオレンジによる支援等の基盤事業も着実に進めていきます。
 
介護予防では、市民からなるリーダー「STEP」のご協力の下、転倒予防、嚥下障害の予防、認知症予防を気軽に楽しく行えるSTEP体操を開催しています。天理駅南団体待合所や公民館等6か所に広がり、令和元年度は延べ約4千名、令和2年度もコロナ禍にも関わらず、2,200名以上に参加いただきました。また、「いきいきはつらつ教室」では緊急事態宣言による中止の間も、ユーチューブやDVD等を活用して体操を継続する等工夫が生まれました。令和3年度は、南団体待合所での開催を隔週から毎週1回に増やし、取組を一層充実させます。

また感染対策に留意しながら、閉じこもり防止のために、ふれあい教室などの「通いの場」を広げて参ります。
令和3年度早々には、生活困窮や、80代の親が50代の子どもの生計を支える「8050問題」など生活課題への対応も含め、地域の福祉力を計画的に向上させるための「地域福祉計画」を完成させます。その後、地域福祉に関わる福祉・医療・保健関係者等が、地域課題を横断的に検証し、今後の支え合い活動の推進・支援のあり方や、包括的な相談支援体制の方向性を議論する場として「(仮称)総合福祉会議」を設置します。その専門部会である「高齢者部会」を設置するとともに、精神障害にも対応した地域包括ケアシステム構築に向けた議論を進めます。
日常生活上の課題については、生活支援コーディネーターを配置し、高齢者とボランティアのマッチングを進めます。令和2年度には、35名の生活支援ボランティアを新たに養成しました。生活課題に加えて、一人暮らしで話し相手が少ない高齢者には、傾聴ボランティアが話し相手となり、こうした支え合いの輪に、天理教青年会をはじめ若い世代も積極的に参加する流れが生まれています。
令和3年度は、「支え合いポイント」を発行する有償ボランティア制度を開始し、地域住民同士の支え合いが普及するよう新たな仕組みを構築して参ります。

いわゆる「買物弱者」に対する支援では、ならコープとの連携による移動販売事業が、市南部と高原地域の計25箇所で定着し、コロナ禍において、大型商業施設に行くことに不安を感じる地域の高齢者等に大変重宝されています。各販売所の売上額も、多い所では例年の約2割増となりました。
令和3年3月末には、新たにセブン・イレブンとの包括連携協定を予定しており、これまでカバーされていなかった地域での展開を協議していきます。

温かい食事を多世代が一緒に摂り、地域のつながりを深める「子ども食堂」が市内各地で定着し、地域防災力の点でも重視してきました。令和元年度は、6校区7公民館で開催し、有志による地域独自の食堂も増加していましたが、令和2年度はコロナ禍のために中止せざるを得ない状況が続きました。持ち帰りのお弁当を配るなどの工夫によって、一部では再開しており、令和3年度は集う場の回復に向けて、地域有志と協働していきます。
また、食品や日用品を「おすそわけ」として届けるなど、子育て世代への支援が全国的に高く評価されている認定NPO法人「おてらおやつクラブ」との間で、令和2年度は「ひとり親家庭への支援に関する協定」を締結しました。
これまでも本市内で児童扶養手当受給者の内希望された家庭に、「おすそわけ」を実施してきており、令和3年度は、ふるさと納税の「ガバメントクラウドファンディング」の仕組みを活用して資金を集め、おてらおやつクラブが本市を含めた全国で支援の輪を広げていくために連携を深めていきます。同事業では、市内産品を支援物資に含めることや、市内飲食店との連携、学習支援なども検討しています。

健康増進の分野では、天理市立地適正化計画において、前栽駅周辺地区を「市の中核医療福祉施設であるメディカルセンターを中心とした、医療・福祉・介護の都市機能に特化した地区を目指す」と位置づけました。
令和元年度には、旧市立病院の跡地をメディカルセンターと一体的利用を図るため社会医療法人高清会に売却しました。現在、高清会は、診療所や透析センター、サービス付き高齢者住宅、保育園、飲食店などの機能を備えた施設、仮称「メディカルセンター・イースト」を建設中で、本年11月の竣工を予定しています。

新型コロナウイルスワクチンについても、同法人の高井病院において、市の集団接種会場を共同で運営いただくなど協力が深まっており、医療と介護をつなぐ包括ケアの拠点として同地区をいっそう発展させていきます。
また、令和2年度は生活習慣病を予防するため、国民健康保険の加入者に対する特定健診の自己負担を半額に軽減しました。
令和3年度もこれを継続し、受診勧奨を進め、未然の対策による医療費の削減を目指します。
また、コロナ禍の家計への影響に配慮し、令和3年度の国民健康保険料は据え置くとともに、新型コロナウイルス感染症に感染するなどした国民健康保険加入被用者に対し、傷病手当金を支給いたします。

2.地域と共に、一人ひとりの豊かな未来を育む教育の充実
第二の柱である「地域と共に、一人ひとりの豊かな未来を育む教育の充実」では、デジタル化を本格的に進めながら、児童生徒がそれぞれ持っている能力や個性を大切にした学びの充実を図ります。

令和2年3月から6月の一斉休業以来、子ども達の教育環境は、感染対策や臨時休業により大きな影響を受けています。本市では、子ども達の安全を最優先にした対応を心がけながら、入学式や卒業式、運動会、修学旅行などの大切な行事も全て実施してきており、教職員や保育士、学童指導員などの多大なご尽力と、保護者及び地域の皆さまのご理解とご協力に改めてお礼申し上げます。
政府はGIGAスクール構想を前倒しで進め、本市も令和2年度に全小中学校において一人一台の情報端末の整備を実施しました。しかし、情報端末を揃えることは決して「目的」ではなくあくまで「手段」です。これから機器をどのように活用し、子ども達にとっての学びを充実させていくかが問われます。
休業中には、オンライン授業や動画配信が感染対策の点からも注目され、本市でも先生方の努力により、いち早く各校で動画の掲載やオンラインでのホームルームなどを実施しました。他方で、動画は一定の理解力のある児童生徒にとっては効果を発揮しても、長時間の視聴は困難であり、また習熟が十分でなかった児童生徒には、通常授業よりも分かりづらく、格差を拡大させる等の課題も全国的に指摘されています。
本市では、子ども達にとって「主体的に、対話を通じた深い学び」が可能となるようなICT機器の活用を目指します。従来からの挙手・指名・発表の形式だけでなく、ICT機器を使って互いの意見を交わし、またオンラインドリルを通じて自分のペースで反復学習ができるよう基礎学力の定着を目指した取組を進めます。
また、教育アプリを活用して、宿題の提出や、家庭への連絡を可能とすることで、児童生徒一人ひとりの状態をよりきめ細かく把握していきます。緊急時を含めた連絡を強化するメール配信システムも導入します。

インターネットの普及により、子ども達は情報の氾濫に曝されています。適切な情報を得て、分析や読み解きを行い、他者とコミュニケーションをとる能力がいっそう求められます。令和2年度は、なら国際映画祭関係者と連携し、短編映画の読み解きを通じたリテラシーの育成授業を福住小学校で実施しました。令和3年度は、各校においてリテラシーの強化も重視して参ります。

不登校やいじめの未然防止の取組では、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、臨床心理士等の専門家を交えた対応を継続するとともに、ICTを活用した遠隔授業を実施し、別室登校している生徒等に対する学習機会の保障を図ります。教育総合センターを拠点とした不登校児童生徒への支援を着実に行い、ボランティア学生による「ゆうフレンド派遣事業」も継続します。
また、本市が重視している自己肯定感の育成についても、コロナ禍により令和2年度は様々な体験活動が制約されました。令和3年度は、感染対策を引き続き行いながら、児童生徒一人ひとりの役割を大切にした活動を工夫し、自分の良さを保護者や教師など周りの大人が共有してくれていると、子ども達が実感できる取組を進めます。
 
子ども達の自己肯定感を育み、孤立を防ぐために、地域の絆が果たす役割が高まっています。市内の全小中学校で「学校運営協議会」が設置され、保護者、地域住民、学識経験者、行政職員等が、学校運営やコロナ禍における学校行事、各校の教育課題について協議する体制が整いました。
地域学校協働活動は、コロナ禍の中で活動が制限されましたが、コーディネーターが中心となり、ボランティアによる登下校の見守り活動、花いっぱい運動などの活動を継続いただきました。新規参加のボランティアも加わり、子どもたちの成長が地域の方々の喜びや生きがいになっています。地域で子どもを見守り育てるという意識が高まり、子どもたちの成長を応援することに対して主体的に関わる人が増え、子どもたちに関する様々な情報が学校に届きやすくなっています。
先駆的な取り組みを進めてきた櫟本校区では、保護者をはじめ地域住民の皆様と学校職員で組織する「櫟小プロジェクト協議会」が、「みんなのとしょかん」「町力塾(マチカ塾)」「夢応援」「夢みまもり」という4つのプロジェクトに取り組み、地元企業や天理大学との連携も深まってきました。学校や公民館を拠点に、子ども達を育むことで多世代がつながり、子ども達自身も地域の中での役割を果たすことで自己肯定感と郷土愛を深めることができる事業を、コロナ後に向けて全市に広げることを目指します。

「町力塾」は、本市がコロナ対策として実施した「天理まなび支え合い塾」で、大学生支援と受験生支援を掛け合わせた着想のモデルともなりました。「支え合い塾」の出席率は毎月約9割、満足度は99%を超えています。コロナ禍の影響が続く令和3年度も「支え合い塾」を実施したいと考えており、国交付金を活用するために、経費は新年度に補正予算案として議会にお諮りする予定です。

子育て家庭の孤立を防ぎ、支え合いの絆を太くしていくことは、就学前の児童にとっても同じく重要です。
「天理市子育て世代すこやか支援センター はぐ~る」では、特に母親が経済的、時間的、精神的な負担感を、孤立した状態で抱え込まないように妊娠期からの切れ目のない相談や支援を行ってきました。コロナ禍の中で、孤立が深まってしまう状況が懸念され、令和2年度は、「はぐ~る」に足を運ぶことのできない家庭へも支援が届くよう、子育て世代へ向けた動画の配信や、電話やメールによる相談を実施するなど工夫をしてきました。
また、市内の地域子育て支援拠点もこれまで実施してきた大規模行事に代えて、様々な活動紹介や子育て情報をもりこんだオンラインイベントを実施しました。
幅広い子育て世代とつながりながら、制作に関わったサークル、はぐ~る職員なども連携を深める機会となっており、令和3年度も積極的に協力して参ります。

就学前の児童を育み、子育て家庭を支援するため、令和4年度からの幼保再編に向けて、令和3年度は丹波市幼稚園と南保育所の統合による南保育所のこども園化と前栽幼稚園のこども園化のための整備事業を行います。経常収支比率が高止まりを続ける中、将来に渡って持続可能な児童福祉サービスを維持しつつ、待機児童を軽減していくためには、施設の余裕スペースを活用しつつ、幼稚園教諭と保育士を一つのチームとして適正配置していく他ありません。
令和3年度中の整備により、再編時に活用できる公共施設等適正管理推進事業債によって本市の負担を最小化し、南保育所及び前栽幼稚園の教育保育環境を改善することができます。また、再編により、令和4年度時点で公立の保育預かり枠を約60名増加させ、幼稚園コースについても給食の提供と預かり時間の延長によりサービス向上を実現します。
こども園のサービスを先行実施する丹波市幼稚園では、令和3年度の入園者は前年度比3倍に急増する予定です。
また、令和3年6月に、民間認可保育所の設置・運営を行う事業者を選定し、令和5年度からの開業を目指します。公立と民間を合わせ、今後2年間で約140名の保育枠の増加を見込んでいます。
老朽化対策では、令和3年度に緊急防災・減災事業債によって本市の負担を最小化しつつ、朝和幼稚園、井戸堂幼稚園の耐震補強工事を行います。また、北保育所新施設を令和6年度中に開園するため、令和3年度は基本・実施設計を行います。
施設整備に加えて、コロナ禍の中で、保育士の事務負担を軽減しつつ、よりきめ細かい保育と保護者との円滑な連絡調整を行うニーズが高まっており、保育所にICT機器を設置する考えです。

教育と児童福祉の壁を超えることによって、本市ではこれまでに学童保育で大きな成果を上げてきました。全国的に学童保育所のニーズが増加し、令和2年度の待機児童数は全国で約16,000人に達しています。本市では、平成27年度より小学校舎の本格活用に方針を改めたことで、短期間で受け入れを約4割増の8百人以上に拡大し、待機児童は発生していません。施設数も12から16に急増しましたが、土地の確保が不要な上、建設費用も5分の1に合理化ができました。
幼保の再編についても、カリキュラムの統合など課題に取り組みつつ、児童にとってより良い育みの場を作っていくために全力を尽くします。

教育施設の整備では、令和2年度に着手した北中学校及び南中学校の改築改修事業を令和3年度も継続します。
南中学校は令和3年度中、北中学校は令和4年度の完成を予定していますが、生徒の仮校舎への移転は完了しており、長年の課題であった小中学校の耐震改修率100%を、ようやく達成することができました。令和3年度は、経年による老朽化対策として、柳本小学校及び福住小学校の体育館の屋上防水改修工事を行い、政府の国土強靭化対策を活用して予算措置済みの6校外壁補修なども実施します。本市の負担軽減をできるだけ図りながら、子ども達の安全・安心、快適な学習環境の確保に努めて参ります。

3.災害や社会変容に備えた「安全・安心」して暮らせる街づくり
第三の柱である「災害や社会変容に備えた「安全・安心」して暮らせる街づくり」では、令和元年度に策定した「天理市国土強靱化地域計画」をもとに、公共施設の耐震化、道路網の整備や橋梁の長寿命化、地域の防災リーダーである防災士の育成や連携強化など、ハードとソフトの双方で着実に取り組んで参ります。
令和2年度は、7月豪雨の影響により東部山間地域で土砂災害があり、台風14号では、本州への上陸には至らなかったものの断続的な雨と、特に二階堂地区への局地的な大雨により、道路冠水やひび割れ等の被害が発生しました。
コロナ禍によって、災害時に開設する避難所では、密集を避けるため、新たな対応が必要となり、本市では「避難所でのコロナウイルス感染予防対策方針」を定めました。濃厚接触者や体調不良の方々のために、専用の避難所を設けるなどの体制を整えるとともに、非接触体温計、飛沫感染防止とプライバシーの確保のためのワンタッチ式ベッド、ワンタッチ式防災ルーム、マンホール用トイレ等を調達しました。
また、県内企業の㈱タカオカと連携協定を結び、飛沫を防ぐ段ボールパーテーションや段ボールベッドを速やかに設備できるよう、中長期的な避難所運営が迫られた事態も想定した対策を講じています。

一人暮らしの高齢者や障がい者、介護認定を受けておられる方など、避難行動要支援者対策では、約3,000名の名簿と個人プランを自治会及び自主防災組織の責任者に共有しています。登録申請の回収率は約7割であり、今後も新規の対象者及び未返送者の方々に名簿への登録を促します。
また、各校区で行う天理市防災訓練の場において避難行動要支援者名簿を使っての安否確認訓練を取り入れるなど、行政と地域が一体となった防災体制を整えて参ります。
令和3年度は、地域防災力の中核として活動いただいている消防団員に雨衣等の安全装備品を貸与する予定です。

農業施設の安全対策では、令和2年度に防災重点ため池103ヶ所のため池マップを作成し公表を終えました。ため池ハザードマップについても、令和2年度末までに作成を終え、公表に向けて調整を進めます。
「防災重点農業用ため池に係る防災工事の推進に関する特別措置法」により、その内の98箇所が防災重点農業用ため池として県の指定を受けました。令和元年度からの調査事業に加えて劣化状況評価等を行い、今後の防災対策を判断して参ります。

高度成長期に多くが建設された橋梁については、令和元年度に策定した橋梁長寿命化修繕計画に基づき、修繕工事を実施してまいります。また、令和5年までに全322橋梁の点検を完了する予定となっており、計画的かつ予防的な修繕によって橋梁の長寿命化を図り、安全で安心して利用できる道路ネットワークの確保に努めてまいります。
令和3年度は11橋の改修を行う予定で、点検結果をもとに、早期措置段階と判定された橋梁補修を進めます。
また、令和3年度は、二階堂体育館の耐震補強工事、床改修、照明設備のLED化等を行い、市体育館施設の耐震が完了する予定です。

安全・安心のための公共事業におけるデジタル化では、災害現場の撮影や橋梁等のインフラ点検、測量等に先端技術を導入する事業に参画しています。令和2年度より、総務省が進める第5世代移動通信システム「ローカル5G」の普及展開に向けた調査研究事業を本市に研究開発拠点を置くシャープが進めており、近畿総合通信局長の出席を得て、第一回の検討会合を本市で開催しました。ドローンが撮影した8K画像を5Gで伝送する実証実験を行い、自治体業務の効率化、高度化を官民共同で進めて参ります。

防犯対策事業では、駅前や小中学校付近を中心に運用中の街頭防犯カメラ45台に加えて、地域の自主防犯意識が高まっている中、自治会等による自主的な防犯カメラ設置に対する補助事業を令和3年度も推進します。また、防犯灯約7,000灯のLED化は平成30年度に完了しましたが、地域の設置要望に対して令和2年度は105灯を新規設置し、令和3年度も新設募集を行います。さらに、特殊詐欺の未然防止のため、自動録音や自動着信拒否等の機能が搭載された防犯電話の購入費用の一部補助を新設します。

4.ポストコロナを見据えた持続可能な行政サービスの実現
第四の柱である、「ポストコロナを見据えた持続可能な行政サービスの実現」については、デジタル市役所及びファシリティ・マネジメントを軸に冒頭でご説明いたしました。
政府では、令和3年3月よりマイナンバーカードについて健康保険利用を開始する等、今後の行政デジタル化の基盤に位置づけています。令和2年度にマイナンバー推進係を新設して取り組んだ結果、本市の交付率は令和3年1月末時点で約3割となりましたが、一層の普及促進に努めるとともに、今後、コンビニ交付サービスで提供する証明書を拡充するなど利便性の向上を図ります。また、令和2年度末には市立図書館に電子図書を導入する等、幅広い行政サービスのデジタル化も合わせて進めます。

5.オール天理で取り組む地方創生の推進
第五の柱である、「オール天理で取り組む地方創生の推進」では、コロナ禍により地方の魅力が再認識される中、本市の歴史、文化、豊かな自然、デジタル等をキーワードに、これまで創生総合戦略に基づき取り組んできた事業を進化させ、持続可能な町の発展を目指します。

まちづくりの基礎となる第3次都市計画マスタープランの策定は、令和元年の着手以降市民アンケートの実施などを進めてきました。令和3年度は、市内の感染状況に留意しながら、「地域別まちづくり懇談会」、「市民会議」を開催します。
本市の道路整備は、名阪側道や勾田櫟本線の開通、北大路線の既設市道との接続などにより、名阪国道や京奈和自動車道へのアクセスを含めて近年飛躍的に向上しました。市中心部と南部を結ぶ九条バイパスも、県道事業として令和2年度も用地買収が進められ、早期の着工が期待されます。
広域的な交通ネットワークが改善されたことで、沿線では工場施設、商業施設や宿泊施設等の土地利用が活発化の兆しを見せています。高原地域では既存道路の利便性が再認識され、企業による大規模な設備投資も進みました。加えて、山の辺の道沿いで整備が進められている「なら歴史芸術文化村」は令和4年春に開村予定です。
今後、これらの動きを市域全体の土地利用の機運の高まりにつなげていくことが重要です。

活性化事業や拠点の活用については、コロナ禍の中で現実と仮想、リアルとデジタルをいかに効果的に組み合わせるかがカギとなりました。
場所や時間にとらわれず世界中の多くの人とつながること、また収益の観点からも、これからリアルとデジタル双方の活用は後退することは無く、重要性が高まっていくことは確実です。
令和2年度、天理駅前広場コフフンでは大規模なイベントは中止となり、「健康太極拳」や「いきいき百歳体操」、「STEP体操」等の健康推進、また、「まなび支え合い塾」や天理大学と連携した「天理イングリッシュビレッジ」等のまなびに関するものを軸に運用してきました。

他方で、本市PR大使の辻本美博氏と市が共催してきた「CoFuFunFes」や「ワールドフェスティバル」は、SNSやユーチューブを活用してオンラインで開催し、これまで本市までお越しいただけなかった全国の方々に天理の文化、国際交流のファンを広げることができました。
また、「天理パフォーマンスフェスティバル」では、動画作成に参加された方が71団体750名に及び、市民会館ステージの開催時よりも大幅に増加しました。商工会青年部による「光の祭典」もソーシャルディスタンスに留意して開催しつつ、オープニングはオンライン配信に切り替えるなど工夫を凝らしました。
全国都道府県対抗eスポーツ選手権の奈良県代表決定戦が、天理駅南団体待合所で開催される等、新たな取組も芽生えています。

奈良・町屋の芸術祭「はならぁと2020」と連携した事業では、本通りのアートスペース「TARN」と上ツ道沿いの町屋の2会場で、現代美術の展覧会を行いつつ、360°自由に鑑賞できるオンライン展示を配信しました。アーティストが天理に滞在し、地域との交流の中で作品を生み出すアーティスト・イン・レジデンス(AIR)事業でも、リアルとバーチャルを組み合わせた発信を実施しました。令和3年度は「はならあと2021」のメイン会場を本市で開催し、AIR事業もさらなる進化を目指します。

文化芸術活動を地方創生に結びつける取組では、なら国際映画祭が展開する映画製作プロジェクト「NARAtive」で制作した「二階堂家物語」の舞台となった長滝町を中心に、森のようちえん「ウィズ・ナチュラ」のメンバーによる移住が続いています。地域コミュニティと移住者を橋渡しするため、移住者と地元有志によって令和元年に-大和高原移住促進プロジェクト㏌天理-椽(たるき)が発足しました。現在までに8世帯約20人の移住を実現しています。
移住促進と文化芸術活動に共通して、地域で育まれてきた絆や伝統、暮らしに然るべき敬意を払いながら、地域も新たな人やモノ、コトを受け入れ、共に新たな価値を創造することが成功の上で不可欠だと考えています。

令和3年3月には、「二階堂家物語」の主演を務めた加藤雅也氏がロケ地を再訪した写真展を開催します。令和3年度は、これまで「NARAtive」に参加した7市村とネットワークを立ち上げ、映画製作が地域に起こした化学反応を共有し、郷土愛や活性化につなげる事業を実施します。
移住促進では、高原地域の成果を全市に広げていくために、空家等実態調査を全市で進めます。また、地域コミュニティに移住者を受け入れる素地をつくるため、地域間で多世代が交流する事業や、地元行事への地域外からの参加促進を行います。
柳本校区では、トレイルセンターに加えて柳本駅舎が地域と観光客の交流拠点となり、令和元年度には、朝市やイルミネーションなども開催されました。
令和2年度には、コロナ禍により行事が中止や縮小されましたが、新たな展開として統廃合の対象となったJA柳本支店を活用して、特産品の普及を目的とした「青豆まつり」が実施され、地元農産品を多くの方が買い求めにいらっしゃいました。地域主導のこうした努力を、市も最大限サポートして参ります。
山の辺の道エリアでは、黒塚古墳展示館の多言語展示を進める他、古墳への親しみを養う「ミニ古墳出土鏡鋳造体験」や「勾玉づくり」等も開催します。
これらの取組の一環として、福住中学校の校舎利活用も検討していきます。

芸術文化と並び、本市の魅力であるスポーツでは、天理大学との連携により、トップアスリート地域貢献プロジェクトを進めてきました。今年度は、コロナ禍により大規模イベントの開催は控えましたが、スポーツ政策特別顧問であるラグビーの立川理道選手をはじめとする本市ゆかりのアスリートが、動画による健康講座を市民に向けて発信くださいました。
令和3年1月に、悲願の全国制覇を果たした天理大学ラグビー部は、地域と共に清掃活動などのボランティア活動に励み、天理警察署と連携した特殊詐欺被害防止の啓発キャンペーンなどにも協力しました。競技に留まらない地域への「感謝」と「恩返し」の真心が、コロナ禍を乗り越え、一手一つに日本一を目指すラグビー部の皆さんを、オール天理で応援する機運を高めたと確信します。
スポーツの力を市民の健康増進、地域の絆づくりにつなげていく取組を、令和3年度も工夫して参ります。
スポーツを通じた国際交流では、本市がオリンピック柔道チームのホストタウンとなっているエジプトとの絆が深まっています。令和2年度は、青年海外協力隊員によるエジプト講座、JICAエジプト事務所や関西事務所と連携したオンライン交流会などを重ね、エジプトの青年スポーツ大臣や駐エジプト日本大使とのオンライン会談も実現しました。この会談には、ロサンゼルス五輪銀メダリストのラシュワン氏も参加し、同氏から天理での滞在経験や天理柔道との交流などについて紹介されました。
東京オリンピック・パラリンピックが開催される場合には、天理大学のご協力を得て、感染対策に万全を尽くした上で、エジプトチームを受け入れ、本市ゆかりの選手の活躍を、市民の皆さまと共に応援したいと考えています。

令和2年度は、コロナ禍の中での感染対策や、地方の移住定住促進の上で、本市がこれまで女性や障がい者の就労支援で取り組んできたテレワークへの注目が飛躍的に高まりました。令和3年度は、産業振興館を拠点に、テレワークを活かしたワーケーションの推進や、天理大学と連携した学生のオンライン就活支援を進めます。
デジタル機器の利用に不安のある市内事業者は少なくなく、コロナ対策の各種給付金の申請には産業振興館や天理市しごとセンターが天理市商工会と協働して支援を行いました。
令和3年度は、「事業継続対策としてのテレワーク」、「ニューノーマル時代の新たな働き方としてのテレワーク」を進めるため、市内事業者のデジタルデバイド(情報格差)解消への取り組みとして、「スマホ講座」、WEB会議を可能にする「ZOOM講座」等を開催します。

農業では、刀根早生柿をはじめとする農産物の魅力を国内外に発信・販路拡大する努力を続けています。
沖縄では、大橋議長にも積極的にご参加いただいて、刀根早生柿1,725ケースの販売につながり、着実に売り上げを伸ばしています。令和元年度から沖縄に出荷した柿の売上の一部を首里城再建の支援金として寄附するなど、柿の出荷を通じて沖縄との産地間提携が強まっています。
また、本市果樹園芸組合が市内保育所に柿を無償提供下さり、食を通じた郷土愛の育成にもご貢献いただいています。和爾町特産の「まこもたけ」も、市内公立小・中学校の給食メニューに取り入れるなど地産地消の取組みを継続します。
令和3年度は、ものづくりも含めて、天理ブランド認定制度を活用し、本市の魅力ある産品のPRに力を入れて参ります。
農地を鳥獣被害から守るため、防護柵や箱わなの設置・管理に対して継続的な補助を行うとともに、狩猟免許の新規取得にかかる試験手数料や講習料の経費を引き続き補助し、防除や捕獲を担う人材の確保に努めます。
平成30年度より、ICTを活用した遠隔監視操作システムを搭載した囲いわなを設置する「スマート捕獲」に取り組んでおり、鳥獣被害対策におけるデジタル化も進めていきます。

令和2年度は、トビイロウンカによる水稲の被害が本市でも深刻でした。9月には、ドローンによる被害状況の確認や農薬の散布を上総町で実施しました。これに協力したのは、シャープ株式会社と連携して行っているインキュベーション事業に応じて、本市に移転してきた事業者です。令和3年度は、病害虫被害に対する警戒を強めるとともに、民間事業者と連携した先端技術の導入をいっそう進める考えです。

災害対策の上でも重要な森林の保全では、森林環境譲与税を原資として、間伐などの森林整備、人材育成・担い手の確保、木材利用の促進や普及啓発などの取組を推進し、森のようちえんウィズ・ナチュラによる森林環境を活かした保育活動を支援します。

環境分野では、市庁舎、文化センター、市民会館、ふるさと園において、令和2年度から国の地球温暖化対策計画に掲げる温室効果ガスの削減目標の達成に貢献するため、温室効果ガスの削減及び光熱水費の効果的な削減を図っています。老朽化により不具合が生じている議場の空調設備を市庁舎のESCO事業に追加し、令和3年4月より省エネルギー化改修を行い、環境負荷の低減や光熱水費の削減を図ります。
環境保全の上でも本市が最重要案件に位置づける新ごみ処理施設(焼却施設及び粗大リサイクル施設)の建設事業は、焼却施設と粗大リサイクル施設の事業者選定作業をそれぞれ進めています。両施設共に、令和3年度中に請負契約の本契約を締結する予定となっており、令和3年度は主に設計業務を行い、令和4年度から工事に着手し、令和7年4月末日の完成を目指します。
周辺施設環境整備事業では、地元要望に幅広く応え、公共事業に類する事業にも対応できるよう「周辺地区環境整備基金」への本市拠出分を切り分け、個別の基金を新設しました。
地元をはじめ、10市町村民の皆様との信頼関係を第一に、環境保全に万全の対策を取るのはもちろんのこと、ごみ処理施設を社会インフラとして捉え、廃棄物エネルギーによる発電や災害時の防災拠点としての活用、環境学習の場の提供など、地元振興にも寄与する新ごみ処理施設として参ります。本事業を成し遂げることを、私自身最大の使命として、引き続き全身全霊を賭して参ります。

 
以上、新年度の市政方針と重点項目の概要をご説明しました。
令和3年度は、継続するコロナ禍に対する感染対策、円滑なワクチン接種をはじめ、市民の命と暮らしをお守りすることを市政の最優先として全力を尽くします。
しかし、明けない夜はありません。そして、いつ、どのような朝を迎えられるかは、私たち社会全体の努力にかかっています。傷つけ合うより、支え合い。支え合う、持続可能な共生社会。多様性を尊重し、互いを認め合う中で、誰もが自分らしく生きていくことができる社会の実現に向けて、本市は精一杯取り組んで参りますので、新年度予算への議員各位のご賛同とお力添えを賜りますようお願い致します。

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