以下、山辺の道にトイレや休憩施設、避難場所などを整備し、天理市で一押しの観光スポットとして広報するなどの施策にもっと取り組むべきだ、とのご指摘をいただいた方に対しての返信。長いです・・・。お手すきであれば、ご一読ください。
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歴史、文化、教えの積み重ねは、天理市のかけがえのない財産、魅力であり、その中で大和の原風景を感じさせる山辺の道は、観光・広報、またライフスタイルの点でも最重要の要素だと考えています。
また、広報は私が就任後、最も重視する市の業務であり、広報課がそもそも無かったところから、本年度から新たに創設しました。
そして、観光担当部署とも一緒に、様々な発信を日々心がけており(FBもその一環ですが)、私も県や国の観光プロモーションには必ず自分自身で参加し、東京を含めて各種メディアや旅行者に直接働きかけを行っています。また、報道・観光関係者が市近辺に来る情報があれば、どこにでも出向き、可能な限り市内にも連れてきて案内を心がけているところです。
しかし、これまでの現実は、日本最古の神宮や日本最古の官道など、資産に事欠かないはずなのに、「奈良」を取り上げる主要観光ガイドの中で、天理市が関連するページは概ね0%~3%程度という状況です。ご指摘のように、これまでの行政の広報のあり方を根本的に反省すべきだと考えております。ただ、すばらしい魅力に比して圧倒的な数値の低さの原因は、単に行政のPR不足というだけでは留まらないと思います。
広報戦略の基本的な流れとして、
対象となるヒトに、①認知してもらい→②興味関心を持ってもらい→③実際に来て/買って/泊まって等行動してもらい→④共感や感想を他のヒトに拡散してもらい
というのが最低限押さえるポイントです。
その上で、より多くの人を取り込むには、多様な興味関心がある中で、できるだけ多くの「入口」をつくりながら、その人が情報に触れるきっかけとなるメディアなどの媒体に取り上げてもらうことが不可欠です。
いわゆる「広報」(広義)には、買い取りの狭義の広報「広告」と、メディアが自主的に取り上げてくれる「PR」の2種類があります。
TV/ラジオ番組や雑誌媒体を、ここぞという時にお金を出すことも重要ですが、全て買取り企画で上記の「認知→行動」に移る流れにもっていくことは、市の予算では到底及びませんし、県はおろか、国や大企業でも現実には不可能です。
したがって、PRをうまく使っていくために、メディアが取り上げたくなる、SNSなどでヒト→ヒトで拡散させたくなるような、切っ掛けや、切り口が重要になってきます。
天空の城・竹田城のように、一枚の写真と「天空の城」というキャッチコピーだけで、ホームランを飛ばせるような例もあります。地域の高齢者のみなさんが「葉っぱ」を売るという従来商品と思われていなかったものを「素人のおばあさん」がビジネスとして展開するという共感と意外性を織り交ぜて成功(映画化まで)した少数例もあります。
山辺の道や石上神宮も、数枚の「最高」な絵/ビジュアルと、日本版「王家の谷」といったような、多くの人を取り込みやすいキャッチコピーなどを組み合わせれば、それだけで十分発信力を持つ「潜在力」はあるでしょうが、まだそこまでは来られていません。
なので、実際の話、取り上げられていません。
「日本最古の官道」の言葉だけで発信力があれば、これまでももっと取り上げられているはずですので、+アルファ、が必要です。
確かに、観光客やハイカーの皆様から、休憩所やトイレが少ないことが不便だ、もっと整備してくれれば来やすいのに、というご指摘を多く頂いており、これは重要な課題だと認識しています。
ただ、例えば周辺の市が重点施策として、ハイキングルートにトイレを毎年増設される努力をされていますが、「それだけで」メディアが取り上げられているか、あるいは天理市民を含めて、その街の外の方が認知を上げ、行きたくなったでしょうか?
重要性を否定しているのではなく、広報の観点からは、例えば古民家などを力のあるクリエーターが再生して、中は古さを活かしつつ大胆なデザインとなり、TOTOやLIXILの最新モデルが入っていて、企業側もそのトイレ自身をPRに使おうとメディアに働きかけ、そこから見る景観が、これまでの既成イメージとは少し違っていて…、という位までいかなければ、雑誌などは「トイレ/避難所等の整備だけでは」記事にしてくれません。
便利ということと、知ってもらう切っ掛けになる、ということの間には、相当のレベルの違いがあるのです。
今、奈良県内を見ても、例えば企業や大学を引っ張ってくるブランド力では、明日香等と天理では圧倒的な力の差があります。しかし、これは決して絶対的、固定的なものではありません。例えば佐賀県武雄市、私はTSUTAYA・スターバックス図書館などを政策そのものとしてこの場で称賛する、ということでは全くありませんが、少なくとも発信力の点では、今や武雄が何かしたければ、企業や他の自治体の方からも喜んで寄ってくるでしょう。政策そのものの是非はともかく、市の発信力やブランド力の点では急速に上がった事例だと思います。
今後の天理市の施策としては、駅前空間デザインも「コマ」の一つとして(これ自体「古墳」や「木」をモチーフにしているのは、本市が古墳数日本一を発信する仕掛けです。その他「水遊びの滝」→桃尾の滝、丹波市の旧水路など、様々な結び付ける仕掛けがあります)、
国内外のデザイン賞なども目指し(「賞」自体が重要でなく、それがメディアに取り上げられる機会になるから大事なのです)、メディアを通じたPRを行いつつ、この場を活用して、実は天理に日本最古の神宮が、道がある、と「気づき」を与える情報発信の場とします。
そして、メディアに掲載していくにあたって、歴史、文化資産、自然、ヒト、スポーツ、音楽など既存の魅力も同時に発信していくために、仕掛けを多く創っておく必要があります。
・耕作放棄地など活用したアグリ・ツーリズムや民泊、週末農業を含めた「里」ならではの暮らし方の提案
・買いたくなる/買に行きたくなる六次産品も含めた商品の開発と、それをよりステキに見せられる物販の場所の整備
・ただ「歩く」に加えて、ノルディック・ウォークなどの歩き方の提案、実際にそれを体験できるシステムや体制の構築
・訪問者の層を増やすため、サイクリストが来て休め、天理を拠点に回るための修理キットを含めたスポットの整備、パーツなどの提供拠点の整備
・また、全く違った切り口では、要介護などで移動できない、旅を「あきらめていた」方々が日本最古の道を回れる、といったような介護・福祉旅行というようなプランの福祉業者や旅行社との共同開発…
など、多くの「入口」を準備し、その中で「山辺の道」を最大限活かせるような位置づけをしていかなければなりません。そして、これらを興味・関心が分かれるターゲット毎、メディアの媒体毎に、ポイントを絞って発信し、売り込んでいかなければなりません。
なかなか全てを一度に行うことは人的にも予算的にも難しいですが、駅前広場が整備される平成28年度末までが時期的に第一段階かと思っています。
現時点で、世界的に活躍する佐藤オオキ氏が手がける作品ということで、事前に駅前を取材に来た雑誌が、この機会に石上神宮にも回り、実際には石上神宮・拝殿の朝の礼拝体験を女子向けのコンテンツとして記事にした、という事例が既にあります。
東京のラジオ局で、天理には日本で一番古い道があり、民家のすぐそばに古墳がたくさんあって…とパーソナリティが全国ネットで話しています。まだ小さな事例なので、天理市民の皆様には気付けていないかもしれません。
でも、これは新たなスタート、芽が出始めている兆候だと思っています。市内で、私の説明不足のためもあるでしょうが「ハコモノ批判」がある一方で、このプロジェクトの意味を雑誌で知った他の県の知事が、佐藤オオキ氏のオフィスに自分も行きたいとアポを申し入れたということも起きたそうです。
「街創り協議会」では、これから駅周辺商店街の活性化に向けたパッケージとして、空店舗対策や誰でも集まれるサロンの設置、また一緒に仕掛けていきたいと思っていただける店舗への助成、共同のメニューや商品開発などを議論していきたいと考えています。
また、駅西ゾーンの田井庄公園などの活用や、市南部、高原地帯の他の「街創り協議会」との連携も行い、天理駅から回るルートの設定や、情報発信、商品開発と売る場の繋がりも作っていきます。
また、山辺の道についても、本日も県と協議し、奈良~桜井までのルートを県と天理を含めた市が一緒に発信すること、統一デザインでの案内板や見どころ、休憩スペースの整備などについて話し合ってきました。
天理市だけでなく、県や周辺自治体と一緒になることが、県外や国外から来る人に発信していく上では重要だと考えています。
そして、繰り返しになりますが、上記の取組みを行うためには、市も汗をかく必要がありますが、市だけでは絶対にできません。
市民の皆様と一緒になって、地熱を盛り上げていくことが不可欠だと思っていますし、私たちだけでは気付けない視点やアイデアをどんどん取り組んでいきたいと思います。
それと同時に、天理を盛り上げたいという想いをもっておられる市民の皆様に、うまく行政を利用いただきたい、私自身も含めて、使い倒していただきたい。
こんなことを仕掛けたい、行政のココを使わてほしい、ココに働きかけてほしい、ココと繋いでほしい、というご提案なら、いつでも喜んでお伺いします。実際に、今もアーケード組合の皆さまと市が一緒になって経産省の助成金を取りにいき、アーケードの入り口ファサードのデザインを、広場と一体感を持たせるため佐藤オオキ氏に依頼するというプロジェクトも、組合の皆さまのご提案をきっかけに進んでいます。
以上、長文にて大変失礼しました。